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ワイドショーで札束をばらまいた闇金王S「金融詐欺事件」の真相

ミッキー安川との舌戦や札束バラマキのパフォーマンスで、80年代のワイドショーを賑やかした元サラ金経営者のS。無料メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』では、とある金融詐欺事件でSと対峙したという弁護士の思い出話が紹介されています。

「金融詐欺事件」

金融事件で思い出すのは、Sのことである。N社という会社を中心に、闇金腎臓売買地上げ売春など様々な違法・合法事業会社を展開し、昭和50年代初期にはその資産が1200億円と言われていた。

テレビのモーニングショーでも社会悪の象徴として取り上げられた。スタジオやSの事務所らしき場所で追及されて、逆切れしたSが、札束ばらまいたシーンは鮮明に記憶に残っている。後日、ゲスト出演者の一人が、あの逆切れはシナリオどおりの出来事であると内幕を暴露したのにも驚いた記憶がある。

このSが(正確にはN社)、訴訟相手方であった。こちらは被告でN社が原告であり、事件名は貸金返還請求事件である。知人の弁護士が被告代理人となっていたのだが、その当時既にいわくつきのSであったから、私も応援を請われて代理人となった。

事案は簡単である。依頼者は10年以上も前に、ある業者から金銭を借りていた。それは間違いのないことであった。その契約書もある。N社はその業者から債権譲渡を受けて、依頼者との間で、依頼者を債務者、N社を債権者とする金銭消費貸借契約締結し、契約書存在した。この契約書に押印されている依頼者の印は、従前別の業者と締結した際に作成された契約書に押印されている印と同じであった。見た目ではだ。もともとの業者は倒産でもしたのか、既に存在していない。

まもなく10年が経過しようとしているので、消滅時効を中断させるために、この訴訟を提起したと訴状に書いてあった。しかし、依頼者は、10年以上前に、その業者から金銭を借り受けたこと、その弁済はなされていないことは認めているが、N社との間で契約をした覚えはないし、契約書作成した覚えもない。ましてや、N社という名前はこの裁判になって初めて知ったと主張している。

調べてみると、N社は、同じような訴訟を何件も提起し、すべて勝訴に近い和解もしくは勝訴で終結していた。

いつも秘書と名乗る派手若い女性を連れて裁判所に来ていた。S本人も派手な服を着ていた。また、Sは非常にバイタリティーのある人間であるとの印象を持った。しかし、それを向ける方向が間違っていた。Sは高知県の被差別地域で生まれ、その生い立ちは悲惨なものであって、その点には同情する。その反動であるのか、青年時代から詐欺まがい金儲けに手を染めており、暴力団ともめたこともあるようだ。

この事件で私たち代理人の考えた筋書は次のようなものであった。Sは貸金業者から、債権を二束三文で買い取った、債権譲渡については債権者からの通知も債務者の承諾もない、Sは買い取った契約書押印されている印影を巧みに偽造して、依頼者との間の契約書偽造した、というものである。

しかし、これがほとんど真実だろうと思われても、こちら側としては、それを立証しなければならない。契約書押印の印と、元々の契約書押印の印とに同一性がないことを鑑定などで明らかにするしかない。簡易な鑑定を実施したとの記憶があるが、印は同一という判断であったと思う。それ以上に立証のしようがない。

最終的には、しぶしぶ、ほとんど敗訴のような和解を受け入れざるを得なかった。我々としては、裁判終了後も、先に述べた筋書に間違いがないと確信をしていた。その後、やはり同種訴訟が起こされており、誰かが警察に相談をしたのか、警察が独自におかしいと思って内偵をしていたのか、平成14年に、Sは訴訟詐欺等逮捕された。逮捕事実は、我々の考えていた筋書そのものであった。

その彼も、逮捕されたら素直自認し、そこそこの刑期の実刑判決を受けて服役した。刑務所死亡したとのもあるが真偽は定かではない。彼のことだからもし生きて出所していたならば、そのバイタリティーで有名になっているような気がする(合法違法を問わず)。そのようなことは耳にしないから、獄死の噂は本当かもしれない。

image by: Shutterstock

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