日本のマンガは「編集者」という武器があるから世界で戦える

 

また、作品を作る際の市場調査に関しても、

読者と作品の関係は、恋愛に似ていると思う。相手がほしがっているものを与えられなければ興味をもってもらえないが、かといって、ほしいものを与えるだけでは満足しない。時代が自覚していないニーズを探す必要がある。

と彼女は書いており、「潜在ニーズの発掘」の重要さを再認識させてくれます。

スマートフォン向けの漫画ビジネスに関して言えば、既存の市場だけを見るのであれば、「紙の上に描かれた漫画をスキャンしてスマホ上で読む」「映画やテレビ向けに作られたアニメ映像をスマホ上で観る」の2つに集約されてしまいますが、それらとは違う、スマートフォンに最適化された新しい形の「漫画体験」が提供できて然るべきだと私は考えており、そこに未だに発掘されていない「潜在ニーズ」があると強く感じているのです。

日本の漫画とグローバル市場の関係に関して、彼女は

日本のマンガ・アニメコンテンツが置かれている現状と未来を考える時、市場のサイズをどうとらえるかが鍵になると思う。すでに独自の市場が成立しているが、一方で、コンテンツ市場全体という視野で見た時に、日本のマンガ・アニメコンテンツは、数十億から数百億かけてつくられるハリウッド映画やアメリカのテレビシリーズなどと同じ財布のパイを奪い合っている。

と指摘していますが、これはとても重要です。「漫画」という狭いジャンルだけで見れば、日本は世界の頂点に立っていますが、「消費者がコンテンツに費やすお金と時間」というビジネス面から言えば、映画「スター・ウォーズ」と同じ土俵で戦っているわけで、そこをちゃんと見据えた上でのビジネスを展開しないといけません。

せっかく、Final Fantasy、Dragon Quest という素晴らしいコンテンツを持ちながらも、それをスターウォーズのようなフランチャイズに育てられないスクエニで働いていた経験からも、この指摘にはとても納得できました。

しかし、そうやってネガティブなことを書きつつも、

1人の作家の才能を、1人または数人の編集者が最大限引き出す。この少人数の意思決定で作品が作られるところに、日本のマンガづくりの最大のアドバンテージがある。なぜなら、傑作は民主主義的な意思決定よりも、天才的なセンスをもつ独裁者による独創から生まれる例が多いからだ。スティーブ・ジョブスでなければiPhoneをつくれなかったように。

と書いた結びの文章に、彼女が何を狙っているのかがはっきりと見て取れます。

つまり、莫大な資金力でハリウッドがコンテンツを作ってくる世界だからこそ、消費者は「本物」を求めるのであり、そこに(少人数でドラゴンボールのような作品が作れてしまう)日本の漫画作りの強さが活かせる、という話です。

image by: MAG2 NEWS

 

週刊 Life is beautiful』より一部抜粋

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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