サウジvsイラン、湾岸の緊迫は「原油安」への焦りか?

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つい先日、サウジアラビアが死刑判決済みのシーア派指導者を処刑しました。それに反発したイランがサウジ大使館を焼き討ちし、両国は断交状態となっています。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で、この両国の断交騒ぎには隠されたメッセージがあると指摘しています。

サウジ・イラン断交

勿論、仕掛けたのは就任1年に近づく中で、新機軸を打ち出しつつあるサウジのサルマン国王です。かねてより死刑判決の出ていたシーア派指導者を処刑したというのは、明らかにサルマン政権の側からの「メッセージ」に他なりません。

では、その「メッセージ」とは何か?それは「シーア派の拡張を許さない」ということでも、「サウジ国内での体制批判には極刑をもって臨む」という引き締め策でもありません。そうではなくて「これ以上の原油安は耐えられない」という悲鳴にも似たものだと思います。

これに対してイランでは即座に「サウジ大使館の焼き討ち」があり、相互に断交ということになったのですが、そのイランの迅速な行動のメッセージも同じだと思います。決して「サウジの蛮行は許さない」とか「サウド家がメッカとメジナの守護者であることは許さない」というようなメッセージではありません。「そうか、そっちも原油安で苦しいのか、こっちも同じさ、じゃあ一丁やるか」というのがイランの発信しているメッセージだと思います。

ですから、ISILが喜ぶだけとか、アメリカの「弱体化」が招いた事態だとなどと憂慮する必要もありません。

では、楽観できるかというと、それも違います。原油安の原因は、70年代や80年代とは全く違う複雑な構図として出てきているのであって、サウジとイランが「激しい口喧嘩」になったぐらい、そんなに戻せるものでもないからです。

そんな中、思うように原油価格が上がらなければ、サウジの財政危機、政治危機は深化してゆくでしょうし、イラン世論の生活への不満は解消しないでしょう。サウジもイランも、原油安時代を生き延びる知恵と方向転換が必要で、この点においては、実はイランよりもサウジの方が脆弱であるように思います。

サウジのサルマン国王は、新国王とはいえ既に80歳。そして「創業者」イブン・サウドから数えて「第二世代」としては最後の国王となる可能性が濃厚です。それほど遠くない時点で「次」へ、つまり「第三世代」へと権力が承継される中で、大きな変動があるかもしれません。年初からサウジの激動が始まったということは、いずれにしても2016年の大きなテーマだと思います。

image by: GongTo / Shutterstock.com

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冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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