毛布におしっこ、奢るから飲みに行こう―変なお爺さん、獄中で大暴れ

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身に覚えのない罪で逮捕勾留された際の体験を書き綴る元弁護士・山本至さんが、メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』で今回取り上げたのは、塀の中で出会った「自宅を放火」したというお爺さん。その人のヘンな行動にみんなお手上げ状態で…。さて、困り果てた山本さんは?

ある弁護士の獄中体験記 「おしっこおじさん」

当初いた5号室から3号室に移った私は、「嫁に申し訳ない」と言うのが口癖の窃盗犯と暮らしていた。

11月23日の就寝直後、係官が寝具一式を持って「夜中に1人来るから寝る場所を空けておいて」と言われた。時計が0時を回った24日に入ってきたが、半睡眠半覚醒状態の私にはどのような人か分からなかった。ただ、寝ることもせず布団とトイレの間を行ったり来たりとうろうろしており、朝方になってやっと寝てくれた。そのとたん、ものすごい鼾が始まった。収容施設で一番嫌われるのは鼾をかく者だそうだ。

朝になってみれば70歳近くに見える爺さんだ。

「何をしたのですか?」

小泉から安倍にかわってついていけない。もうどうでもいいんだ。」

窃盗犯と思わず顔を見合わせると、続いて

「どうせ俺に日本国籍はないし」と言い、何をしたのか再度聞いた私たちに「自宅に放火」との返答。さらに「1人だったの?」と聞くと、「農業やっていて妹がいる。妹も殺そうとして火をつけたけど助かったみたい」。本当なら放火と殺人未遂かよ、重いぜと内心で思っていると、「明日には刑務所に行けるよね」との質問がくる。

私たちは声をそろえてきっぱりと「行けません」と教えた。これを聞いた彼は、黙り込んでしまい、なぜかトイレ前の板敷に自分の毛布を運び、そこに座り込んでしまった。畳敷部分は3人でもけっして狭くはないのに、わざわざ板敷に行くとはやはりおかしい人なのか? 私たちはあまり関わり合いになるのはよそうと暗黙の了解をした。

ところが、向こうから話しかけてくるのを無視することはできない。いきなり立ち上がって出入り口の鉄格子にしがみついて、「開かないな」との一言。当たり前である。開かないように造られているのだから。仮に開いたとしてもその後いくつもの関門があり逃亡なんてできない。「開かないよ」と教えるまでもないことを言ったが、それでもまだしがみつき揺すりながら、「自由に出入りできないの?」と聞いてくる。

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