毛布におしっこ、奢るから飲みに行こう―変なお爺さん、獄中で大暴れ

 

何なんだこいつは。隣の2室と4室からも「どうしたの」との声がかかる。仕方ないから「できないよ」と返答。やっとあきらめてくれた。その後さらにたまげることが起きる。相変わらず毛布はトイレ前の板敷に置いてあるが、そこにボーっと立っている。その後驚くべきことが起こった。突然ジョボジョボという音がするので振りかえってみると、トイレ前の自分の毛布に小便をしているではないか! まぁ、驚いたの何の。

すぐに「担当さ~ん、毛布の上におしっこしています」と怒鳴ると、回りの部屋からも「え~っ」という大合唱。駆け付けた係官も烈火のごとく怒っていた。当然でしょうな。係官から雑巾などを渡され、掃除と後片付けをさせられた。私たちがだ。ご本人は知らん顔でいる。認知症だったのかもしれないが、私たちはそこまで気が回らなかった。

そのまま夕食までのひとときをうつらうつらしながら過ごしていると、「金があるから今晩飲みに行こうよ」と、ありがたいお誘いがきた。馬鹿野郎と思いつつ「行けるのなら自分で出すよ」と言うと「俺がおごるからさ~」と気前のいいことを言う。

あきらめ気分で「ここからは出られないから飲みに行けないんだよ」と諭すと、しばし黙り込んで「寝る時間までに戻ればいいんじゃない」と、そうであれば本当にいいなと思うようなことを言ってくれるが、無視することにした。

窃盗犯と相談して係官に部屋替えをお願いしてみようということになった。

「彼をどこかに移してもらえませんか?」

「原則独居はないからダメだよ」

「でもこれじゃ夜も寝れませんよ」

「でもな~」

「寝ているときにおしっこでもされたらたまりませんよ」

「考えておくから辛抱してくれ」

との会話。私たちの身にもなってもらいたい。

夕食後私は取調べに呼ばれ、終了後に戻ったらおしっこおじさんはいなくなっていた。

 

著者/山本 至(やまもと いたる)
元弁護士。昭和29年生まれ。昭和51年早稲田大学卒業。金融機関勤務後平成元年司法試験合格、同2年司法研修所入所(修習44期)。平成4年弁護士登録(東京弁護士会)。平成18年に証拠偽造、証人威迫容疑で逮捕。無罪を主張したにもかかわらず、平成24年10月に最高裁判所で懲役1年6月の実刑判決が確定。宮崎刑務所、大分刑務所で服役し、平成26年4月出所。現在は自身の体験談などの執筆活動中。

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