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Songquan Deng/Shutterstock

AIIBは、中国「シルクロード経済圏」のATMとして利用される

AIIBを立ち上げた中国の真なる思惑とは何か? メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』の著者であるコンサルタントのヤスさんは、中国はAIIBで手中にした資金を、長年の課題でもある“内陸部の経済発展”に投入するのではと指摘しています。

AIIBの始動と中国経済の今後

では早速最初のテーマに行く。AIIBと今後の中国経済の動きに関してである。

中国経済が減速をしている。中国政府の発表では7.4%の今年の目標成長率を7.0%に下方修正したばかりだが、実際の成長率はこれよりもさらに低いとの記事やレポートにはことかかない。5%程度まで落ち込んでいるのではないかという観測や、地域によっては3%程度まで下落しているのではないかという現地からの報告まである。

経済減速の原因

中国経済が減速している原因はかなりはっきりしている。沿岸部の安い労働力を活用して安価な工業製品を先進国に輸出するこれまでの経済成長モデルが、完全に限界に来たことである。これがどういう状況なのか理解するために、1978年からの中国経済の歩みを簡単に振り返って見よう。

当初の輸出経済モデル

中国が「改革開放」をスローガンにして市場経済の方向へと大きく舵を切ったのは1978年であった。それから1989年の天安門事件までの10年間、中国は日本をモデルにした政府管理型の市場経済を目標に大きく発展した。だが、天安門事件における人権弾圧の制裁で中国は先進諸国から排除され、1990年代の始めには大きく停滞した。制裁解除後も低成長が続いた。

その後、中国政府はこの苦境を脱する方策として安い労働力を主に外資系の製造業に開放し、安価な労働力を武器にして製造業の世界的な中心になる戦略を推し進めた。この戦略は功を奏し、年率10%前後の成長が続き、中国は文字どおり「世界の工場」となった。広東省などの沿岸部地域による輸出が中国経済をけん引した。

>>次ページ 資金規模500兆円超の「陰の銀行システム」

リーマンショック以降

しかしこの成長モデルは、2008年のリーマンショックでピークを迎えた金融危機によって維持が困難になった。2008年と2009年に世界経済は縮小し、その結果として中国経済も大きく減速する可能性が出て来た。

一方中国の輸出工業の労働力は、農民工と呼ばれる発達が遅れた内陸部からやってきた出稼ぎの農民が中心だった。中国全体で2億人ほどいると見られている。もし金融危機による世界経済の縮小で倒産が激増し、失業率が急上昇すると、職を失った農民工は暴動などを引き起こし、社会不安の原因になりかねない。

そのため中国政府は、社会不安の高まりを未然に防止する必要からも企業倒産を極力防ぐ方針を採用した。政府系銀行の貸し出し金利を低下させ、資金が必要な企業にはそれこそ無尽蔵に融資をし、可能な限り倒産を回避した。その結果として失業は抑止され、社会不安の増大も回避された。

バブルの発生と政策金利の上昇

しかしこの政策は、バブルの発生というマイナスを伴っていた。銀行から市場に流れた資金の多くは、不動産投資や、経済成長を焦る地方政府による開発プロジェクトへと流れた。このため大都市圏の不動産価格は極端に高騰し、また地方では、地方政府が推し進める開発プロジェクトのため土地を追われた農民による暴動が相次いだ。

これらの矛盾を緩和するために、2010年の末から中国政府は政策金利を段階的に引き上げた。しかし当初はバブルの崩壊も懸念されたものの、実際にはそうならなかった。銀行の融資に頼れなくなった不動会社や地方政府は、「利財商品」と呼ばれる金融商品で資金を得るようになった。「利財商品」とは、企業や地方政府が政府の監督外のノンバンクを通して販売する高利回りの債権である。この販売が好調な限り、バブルは継続し、地方政府の開発プロジェクトの拡大も続いた。

そしてこの結果として、「陰の銀行システム」と呼ばれる巨大な金融システムが形成され、500兆円を越える資金の規模にまで拡大した。

>>次ページ 決して良くはない中国経済の現状

バブルの崩壊と経済の減速

しかしながら、これは長くは続かなかった。中国経済の成長が続くにつれ賃金は急激に上昇し、安い労働力の供給地としての位置を失うことになった。中国に進出していて外資系の企業は、次第に賃金がもっと安い東南アジア諸国などに移動し、中国からの撤退が相次ぐようになった。これは、中国経済を大きく減速させる。

また中国政府は、引き続き高金利政策を堅持したため、景気はさらに減速した。その結果として不動産の需要が減退し、不動産価格は大きく下げに転じた。バブルの終焉である。

さらに地方政府が推進していた開発プロジェクトも、景気が減速するにつれて停滞し、多くのプロジェクトが放棄されるようになった。

これらの結果、多くの企業や地方政府が「陰の銀行システム」を通して販売していた高利回りの金融商品である「利財商品」も破綻した。それに伴い、「陰の銀行システム」の主役で、政府の監督の及ばない金融会社やノンバンクも破綻した。結局、「陰の銀行システム」に融資していたのは表の政府系銀行が多く、「陰の銀行システム」の破綻が表の銀行の破綻を誘発するという最悪の可能性が現実になろうとしていた。

2014年、中国政府は破綻の懸念があった大手の政府系銀行に多額の支援を実施し、表の銀行システムの崩壊は防止した。しかし、政府の介入によって突然のクラッシュは回避されながらも、不動産バブルの崩壊、地方政府の開発プロジェクトの縮小、「陰の銀行システム」の破綻はゆっくりと進み、中国経済の成長率を圧迫する要因になっている。

内陸部の開発と内需依存型モデル

これがいまの中国経済の状況である。決してよい状況ではない。このような状況を脱し、新たな成長の軌道に入るために中国政府が打ち出した政策が、内需依存型モデルへの転換と、遅れた内陸部の開発である。

先にも書いたように、中国では賃金がかなり上昇し、そのため都市に在住する中間層が1億人を越える規模で誕生した。これらの中間層が生み出す内需を基礎にゆるやかな成長を目指すモデルだ。

そして次は、遅れた内陸部の経済を製造業の中心として開発し、内陸部の経済に主導されて中国が発展させるという政策である。この方針のもと、2009年頃から中国政府は内陸部の省に盛んにインフラ投資を開始した。

>>次ページ 中間層の内需と内陸部の発展にけん引される安定成長へ

AIIBとシルクロード経済圏構想

さて、中国経済のこうした現状を背景にいま大きな話題になっている「AIIB」と「シルクロード経済圏構想」を見ると、それらの本来の目的がよく見えてくる。

周知のように「新シルクロード経済圏構想」とは、「一帯一路」とも言われるように、中国からヨーロッパまでの海路を整備すると同時に、中国とヨーロッパを中央アジアを経由して結ぶ鉄道網を整備する構想だ。鉄道網の主要路線はすべて開発の焦点になっている内陸部の省を通過する。

内陸部の経済発展にとって最大のネックになっているのは、市場へのアクセスがないということだ。中国の最大市場はヨーロッパである。これまで中国からヨーロッパまでの輸送路は沿岸部の諸都市の海路であった。だが、内陸部の省は沿岸部までの距離が遠く、内陸部の生産品の輸送費はコスト的に相当に高くついてしまっていた。この輸送路の問題が、内陸部の開発の大きなネックになっていた。

「シルクロード経済圏構想」の柱のひとつである中国とヨーロッパの鉄道網の整備は、内陸部の発展のネックとなっている輸送路の問題を乗り越え、内陸部と中央アジア、そしてヨーロッパの市場を直接結ぶことを目的にした壮大な計画である。

そして「AIIB」は、これに必要な資金を提供する機関として機能することは間違いない。

新たな成長軌道に入る中国

このように見ると、「シルクロード経済圏構想」と「AIIB」によって中国の内陸部の発展が加速されることは間違いないと見てよいだろう。中国政府は金融機関などの資金を注入するなどしてバブルの突然のクラッシュを防止しながら、鉄道網の整備を急ピッチで進めて内陸部の発展を加速させつつある。

あと少しすると、中国はこれまでの沿岸部中心の輸出モデルから、中間層の内需と内陸部の発展にけん引される安定成長のモデルに移行する可能性が極めて高い。

このような見通しが十分に立つからこそ、イギリス、ドイツ、フランスなどの主要先進国を含む57カ国がいち早く参加を表明したのである。

日本ではいまだに、バブルの崩壊から中国は長期的に低迷し、最終的には国内の暴動で分裂するとのファンタジーのようなシナリオがまことしやかに流通している。このようなシナリオが幻影にしか過ぎず、実現しようもないことは明らかである。

>>次ページ もしかしたらいまが投資の仕込み時期か?

もしかしたらいまが投資の仕込み時期か?

いま中国は、こうした新たな成長軌道に入る直前の状態にいる可能性がある。明らかにいま、中国経済は減速している。新しいモデルに基づく成長軌道への過渡期にあると見てよいだろう。

もちろん、この内需異存と内陸開発に主導されるモデルの成長率は、これまでの沿岸部の輸出依存型のモデルよりも低いはずだ。7%程度ではないかと思われる。しかし、これだけの成長率が継続的に確保できる体制になるなら、いま投資を仕込んでおくと、数年後には大きなリターンが得られるかもしれない。

では日本は?

では、「AIIB」への参加を見送った日本はこれからどうなるのだろうか?いまは安倍首相の訪米による日米同盟の強化が華々しく喧伝されているが、実際の状況は楽観できるものではまったくない

大手格付け機関の「フィッチ」が日本国債の格付けを2ランク引き下げた。また、「バーゼル銀行監督委員会」は、銀行の保有する国債をリスク資産とする新たな「バーゼル規制」を出した。これは日本をターゲットにした可能性がある。

こうした変化があってから、日本を巡る多くの予測記事が海外で出るようになった。これらの内容は決して楽観できるものではない。

これはあまりに長くなるので、次回の記事で詳しく解説することにする。

『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』より一部抜粋

著者/ヤス
早稲田大学卒。企業の語学研修、IT関連研修、企業関連セミナー、コンサルティング等を担当。世界の未来を、政治経済のみならず予言やスピリチュアル系など利用可能なあらゆる枠組みを使い見通しを立てる。ブログ『ヤスの備忘録』で紹介しきれない重要な情報や分析をメルマガで配信。
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