MAG2 NEWS MENU

【日中韓】かつての敵を総立ちさせた安倍演説に学ぶ、未来志向の和解とは?

今もなお賛否両論が渦巻く米議会での「安倍演説」。『正論』元編集長でジャーナリストの上島嘉郎氏は、今回の演説について「総理は日本国のために健闘された」と評価しつつ、日本人が取り戻すべき、近隣諸国との“和解”のために必要な意識とは何かを、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』にて、こう論じています。

安倍談話に望むこと

訪米した安倍晋三総理が、上下両院合同会議で「希望の同盟へ」と題して演説しました。演説の模様は総理官邸のホームページで確認することが出来ます。

総理の演説は、日米安保体制を「希望の同盟」と名づけ、それを基に日米両国の協力を謳い上げるものでした。オバマ大統領も、演説の前日の首脳会談後の共同記者会見で、日米は「地球的規模のパートナー」と述べました。

安倍、オバマ両首脳の発言は、覇権的な欲求を隠さない中国に対するメッセージにもなっていました。

日本のマスコミの大半は、相変わらず、過去に対する反省が足りないとか、中国への牽制に偏っているとか安倍演説を批判しましたが、私は率直に、「総理は日本国のために健闘された」と思います。

新聞各紙の社説は以下に↓↓

植民地支配や侵略の被害にあったり、過剰な負担を押しつけられたりしている側の人々に寄り添う姿勢がなければ、説得力は生まれない。(略)
先のアジア・アフリカ会議とあわせた首相の二つの演説では、歴史認識であつれきを生まないためのレトリックが目についた。戦後70年談話は、それでは通るまい
(5月1日付朝日新聞社説)

同盟を強化する動機が、台頭する中国をけん制することに偏り過ぎてはいけない。(略)
今回の米議会演説は戦後70年の首相談話の先取りとも言われてきた。両者は目的を異にするものだが、国内外の関心を集めている首相談話の作成にあたっては、より明確で賢明な歴史認識を示す必要がある
(4月30日付毎日新聞社説)

日米関係が主要テーマだったためか、首相は「侵略」や「お詫び」には言及しなかった。
しかし、今夏に発表される予定の戦後70年談話では、安倍首相の歴史観そのものが問われる。「侵略の定義は定まっていない」という立場のままでいいのか
(5月1日付読売新聞社説)

日本のマスコミの問題は、自国の名誉を守り、国益を追求する政治の動きに対し、日本に対してはそれを罪悪視するかのような姿勢が改まらないことです。

彼らはそんな意識は持っていないと言うでしょうが、被占領下にGHQの様々な手段によって刷り込まれた「自らを咎め続ける」意識が継続しているのは、江藤淳の指摘した閉ざされた言語空間を疑い、“鏡張りの部屋”の外からの視点を持てば十分にわかることです。

>>次ページ 安倍総理が語った「日米和解」の成果とは?

戦争した相手との「和解」は、確かに難しい。しかしそれが双方に可能で、有益であれば求めるべきです。

今回の演説で安倍総理は、第二次大戦メモリアルを訪れたことに触れ、こう語りました。

真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚海…、メモリアルに刻まれた戦場の名が心をよぎり、私はアメリカの若者の、失われた夢、未来を思いました。

歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。私は深い悔悟を胸に、しばしその場に立って、黙祷を捧げました。

親愛なる、友人の皆さん、日本国と、日本国民を代表し、先の戦争に斃れた米国の人々の魂に、深い一礼を捧げます。とこしえの、哀悼を捧げます

いまギャラリーに、ローレンス・スノーデン海兵隊中将がお座りです。70年前の2月、23歳の海兵隊大尉として中隊を率い、硫黄島に上陸した方です。近年、中将は、硫黄島で開く日米合同の慰霊祭にしばしば参加してこられました。こう、仰っています。

「硫黄島には、勝利を祝うため行ったのではない、行っているのでもない。その厳かなる目的は、双方の戦死者を追悼し、栄誉を称えることだ」

もうおひとかた、中将の隣にいるのは、新藤義孝国会議員。かつて私の内閣で閣僚を務めた方ですが、この方のお祖父さんこそ、勇猛がいまに伝わる栗林忠道大将・硫黄島守備隊司令官でした。

これを歴史の奇跡と呼ばずして、何をそう呼ぶべきでしょう。

熾烈に戦い合った敵は、心の紐帯が結ぶ友になりました。スノーデン中将、和解の努力を尊く思います

これは戦後処理とは何か、戦争における「和解」の可能性を世界の人々に想起させたという意味で、見事に行き届いたメッセージだったと思います。

余談ながら、栗林忠道中将が米軍にどのように評価されていたか。敵将スミス中将の回顧録にはこう記されています。

われに驚くべき大損害を与えたのは栗林将軍であった。彼は一人十殺を訓示し、寸土たりとも敵に委してはならぬと兵を戒めた。息絶えんとする日本の捕虜にただせば、彼らは申し合わせたように将軍栗林の偉大な統帥に心酔し、これを激賞してやまなかった。真に名将と云わなければならない

日米同盟とは、かつて敵味方となって死力を尽くして戦った者同士の強固な同盟であることを、安倍総理は「和解」の成果として強調したわけです。

議場で演説を聴いた米議員の多くがそれを確認し、立ち上がって拍手した。安倍総理は、かつての敵を立ち上がらせたのですね。

もちろん、現実は綺麗事ばかりではない。リンドバーグが書き残したように、日本軍の捕虜を生きたまま輸送機の機上から地上に放り出すというような残虐行為も彼らにはあった。原爆投下もあります。

戦争や戦場というものは、人間の持つ多様な面、愚かさ、崇高さを交錯させて描き出す場なのだと思います。だからこそ、その行為は単純な言葉では括れない

世界の歴史における大東亜戦争の意味は、東京裁判や戦勝国の言い分のみで語られるものではない

新聞各紙の安倍批判は先に並べたとおりですが、痛みに寄り添えとか、侵略の事実を認め、お詫びしろとかの相変わらずの主張は、誤解を恐れずに言えば、気分の問題でしかない

先の大戦に関わる処理は、サンフランシスコ講和条約、日韓基本条約、日中共同声明と日中平和友好条約等々、手続き的には一部の国を除いて済んでいるのです。(この一部に中国や韓国は含まれません)

>>次ページ 一方的な押し付けでない、真なる「和解」とは?

そして、「和解」とは、「争いをしている当事者が互いに譲歩しあって、その間の争いを止めることを約する契約」のことです。

和解には、歴史の事実を重視する学問的態度、フェアな姿勢が必要です。それは戦争に勝った側のみの政治的要求が無条件に認められるということであってはならない。それでは「和解」になりません。

現在を生きる日本人は、父祖の歩みを「野蛮な侵略」と決めつける前に、かつて日本ほど人種の平等をはっきり英米はじめ国際社会に求めた国があったかを想起すべきです。

無論、日本の戦争目的はそれだけではありませんでしたが、日本が必死になって不平等な人種的偏見に立った白人の旧秩序に反抗挺身している間に、ついに歴史の歯車が回ったということはたしかな事実でしょう。

どんな民族、どんな国でも自らの存在理由を信じています。約めて言えば、戦争とはそれを確認し拡張する欲求として究極的に生じるものです。もちろん、だから戦争は許されるなどと言いたいわけではありません。

戦後70年の歳月は、世界の人々にいかなる時間を与えたか。少なくとも日本人にとっては、単純な善悪二分法で父祖の歴史を決めつけるのは妥当かどうかを疑う時間にしたいものです。

勝者に押しつけられた思い込みを諾々と抱き続けていては、複雑な歴史の事象を認識できなくなるばかりか、本当に必要な教訓からは遠ざかるばかりでしょう。自ら正当と信じる主張をすることは、決して自らを甘やかすことと同じではない。

「村山談話が出てから今日まで、歴史問題で日韓・日中関係がいろいろガタガタすることはなかった」

これは安倍批判を繰り返す村山富市元総理の言葉ですが、明確に事実に反しています。

村山談話発表から3週間もたたない(平成)7年9月3日、中国の江沢民国家主席(当時)は演説で、次のように強調した。

「ここ数年、日本では侵略の歴史を否定し、侵略戦争と植民地支配を美化しようとする論調がしばしば出ている。日本は真剣に歴史の教訓をくみ取り、侵略の罪を深く悔い改めてこそ、アジアの人民と世界の理解と信頼が得られる」(略)

この年11月、江氏と韓国の金泳三大統領(当時)がソウルで会談し、共同記者会見を開いた際には、金氏は歴史問題に関してこう言い放った。

「この際、(日本の)態度を必ず改めさせる」

韓国は、中国との間にも朝鮮戦争の際の中国軍の大量介入など清算されていない歴史問題があるにもかかわらず、中国を表立って批判しようとはしない。

いずれにしろ村山談話の発表後、日中・日韓間の歴史問題が収まったという客観的事実は見当たらない。日本のメディアが政治家の歴史をめぐる発言を問題視して中韓両国にご注進し、その結果、国際問題化するというパターンは現在まで何も変わっていない
(平成27年4月24日付産経新聞【阿比留瑠比の極言御免】「村山談話は役に立ったのか」)

「和解」の意味を知らず、あるいは、知っていてもそれを求める気のない相手にいくら謝罪や補償を重ねても、それは未来に繋がる関係構築にはならない

日本人が取り戻すべきは、この当たり前の判断です。

image by:自由民主党

上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

『三橋貴明の「新」日本経済新聞』より
経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(滋賀大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り!日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!
≪最新号はこちら≫

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け