【福島の今】いわきから東北復興を見守る憩いのカフェテラス「サーフィン」

2014.12.11
by まつさん。
 

岸田浩和がお届けする 行ってきました東北 〜福島県湯本編〜

カフェテラス“サーフィン”

カフェテラス“サーフィン”

アンティークやこだわりのインテリアが目を引く店内。「内装もすべて、私がやりました」と笑う、オーナーの鈴木富子さん。

福島県いわき市の薄磯海岸に、31年間続くカフェテラスがありました。
「サーフィン」と名付けられたこの店は、海を臨む気持ちのいい立地と、アンティークに彩られた居心地のいい店内が評判で、地元はもとより県外から来る人たちにも愛されていました。この店のオーナー鈴木富子さん(61)は、27歳の時に薄磯海岸で「サーフィン」をオープンしました。それまで洋裁の仕事をしていた富子さんが突然飲食店を始めた理由について、彼女は「子どもたちが“お母さんただいまー”って、学校から帰ってくる姿を毎日見たかったから」と振り返ります。

お客さんたちが店でコーヒーを片手に、まるで自宅でくつろぐかのように本や新聞を読む姿を見て、富子さんはこの店を始めて良かったと感じていました。窓辺で、恋愛小説を一生懸命読むお客さんを見て、密かに「もし、このお客さんも恋愛をしているなら、うまく実るといいなぁ」と心の中で応援したり、新聞の経済欄を熱心に読む男性をみて、「この人は、どんな仕事をしているのだろうか?たまには、ゆっくり休んでくださいね」と願いながら、コーヒーを淹れていました。

2011年3月11日の津波で、自宅と店が壊れてしまい、震災以降は近くの避難所に身を寄せていました。それまで毎週楽しみにしていたテレビ番組を、体育館のテレビで大勢と一緒に見ていると「どうして私はこんなところで、冷たい木の床に座ってテレビを見ているのかしら。暖かい、自宅のソファーでゆっくりと見たかったのに…」と不思議な気持ちになりました。我にかえり「そうか、もう自宅の2階に、いつもの暖かいソファーはないんだった」そう思うと、涙がとまらなくなりました。

しばらくたち、富子さんは「もう一度店をやろう」と、店舗の再建に乗り出しました。建物の建築に制限がかかった薄磯海岸での営業再開は断念。かわって、自身の出身地である湯本地区に場所を借りて、2012年に入って新しい「サーフィン」をオープンしました。
「プレハブの仮設店舗でやらないかという話もあったけど、それだと震災前のサーフィンを気に入ってくれたお客さんに申し訳ないから」と話す富子さんは、「ゆっくりと、心からくつろいでもらえる場所にしたかったんです」と、湯本での再オープンの理由を話してくれました。

カフェサーフィン

店内のインテリアや販売されている小物は、すべて富子さんが集めた、こだわりの品。

再開したサーフィンから、海は見えなくなってしまいましたが、常磐線の「常磐湯本駅」から近いこともあり、これまでのお客さんとともに、震災後にサーフィンの事を知ったお客さんも、お店に足を運んでくれるようになりました。

カフェサーフィン3

評判の美味しいコーヒーや、ケーキメニューがおすすめ。ランチには、パスタメニューも人気だ。

「この店の中だけ、別の時間が流れているようでしょ」と話すお客さんの一人は、「何か考え事をしたいときとか、リラックスしたいときには、ここに来るんです。東京に行かなくても、近くにこんなお店があるんでありがたいですね」と笑います。

長年積み上げてきた多くのものを失い、失意にあった富子さん。それでも「もう一度、お客さんにくつろいでもらえる場所を提供したい」という熱意が富子さんを突き動かしました。

カフェサーフィン4

湯本地区に再オープンした「サーフィン」の外観。

帰り際、「実はね」という富子さんが「今、入っている湯本のこの建物も、近いうちに老朽化で取り壊しになるんです。この場所も、もしかしたら長く続けられないかもしれない」と話してくれました。「でもね」と富子さんは顔を上げ、「自分の力だけではどうにもならないことも、人の助けを借りることで、乗り越えられることを知った。今は不安よりも、なんとかなるという安心がある」と話してくれました。彼女には「私はもうこれ以上悲しみたくない。だから、これからの人生は楽しいことで思い出を埋めていきたい」という、強い思いがあります。
店先まで見送りに来てくれた富子さん。「なすがまま、店の名前のように、いい流れに身を任せて進んでいこうと思います!」と、手を振ってくれました。

写真・文/岸田浩和

Information
● カフェサーフィン
福島県常磐湯本町天王崎26
TEL:0246-43-0381
毎週月曜・日曜休
10時〜18時ごろまで(LO 17:00)

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