命のつながりを考える-精一杯、生きて、静かに命を終える
『きたきつねのしあわせ』
(手島圭三郎・作)
木版画家として名高い手島圭三郎さんの傑作。素朴で美しい挿絵が光る「いきるよろこび」シリーズの一冊です。
主人公のキタキツネのオスは年老いています。まだ5歳ですが、キタキツネの寿命は短いのです。
冬になってエサが捕りにくくなると、共に子育てをしたメスは先に死んでしまいました。なんとか冬を乗り切ったオスは、ある暖かい春の日、昨年、生まれた子どものメスギツネに会いに行きました。もう一人前になって、子育てをしています。主人公は、かわいい孫たちと遊びました。
やがて夏になりました。主人公は5年前に一緒に生まれたきょうだいに会いたくなりました。山に行きましたが、キツネはいません。海に行っても、会えませんでした。「いきているのは じぶんだけだと おもいました」。
秋になると、主人公は次第に衰弱していきました。昼間から居眠りすることが多くなった主人公は、ある日、カラスの群れに襲われました。主人公を危機から救ってくれたのは孫たちでした。もうすっかり、たくましいキツネに成長していたのです。
寒さが増していき、雪が降ってきました。雪が降るなか、居眠りをしていた主人公が目を覚ますと、先に死んだメスがいました。空からオスを迎えに来たのです。2匹は「ゆきのそらを どこまでも のぼっていきました」……。
この絵本は短編小説に比べても圧倒的に短い作品ですが、内容は深くて濃いです。「生きるとは何か?」「死とは?」「幸せとは?」といった重い問いを突きつけられます。
冬、エサが捕れずに死んでしまったメスがカラスに食べられてしまいます。痛ましい情景ですが、自然界では普通に繰り返されていることなのでしょう。
精一杯、生きて、静かに命を終える──自然界を満たしているそんな時の流れから人間が離れてしまったとき、人の心に不幸の種がまかれたのではないでしょうか。
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