【王様と私】日本人が気づいていない、ケン・ワタナベが掴み取った歴史的成功

 

まず、渡辺謙さんには、TVドラマや映画や舞台での経験はあるが、ミュージカルの経験がない。まったくの初挑戦だという。歌って踊る練習が必要不可欠。しかも、ここで要求されるレベルは、世界最高峰のブロードウェイ水準。普通、55歳になった人が、そんな挑戦しようと思うだろうか?

さらに、謙さんは、そんなに英語が得意というわけでもない。これは本人も認めている。信じられない話だが、『ラスト・サムライ』のオーディションに合格してから、本格的に英語の勉強をはじめたという。これだけでも超すごい。

でもまぁ、確かに、ハリウッド映画と言っても映画では、最悪、撮りなおしできる。英語でのセリフに問題があっても、撮りなおしができる映画と、生でそのまま演技し続けなければいけない舞台とでは、要求される英語力のレベルは大違いだ。

さらに、映画と生の舞台とでは、実は、セリフの英語もまったく違う。舞台のセリフでは韻を踏んだり、日常会話では使わないような言葉遣いをしたりする。

セリフを届かせる距離も違う。だから、シェークスピアが書いたセリフのような演劇的な英語力を鍛える必要がある。

それだけじゃない。ミュージカルだから当然、歌もある。歌唱力も求められる。謙さんは過去に歌手としてCDを出したこともあるそうだが、今回は、すべて英語の歌だ。しかも、踊りながら歌うことになる。

いや、本当に55歳で、こんなハードルの高いチャレンジに挑戦しようなんて、よく思えたなぁと心から感心する。

何しろ、ミュージカル『王様と私』の上演時間は、15分の休憩を挟んで1公演あたり2時間55分(約3時間)もあるのだ!! これが、月曜日を除き、火曜日から日曜日までずっと毎晩!! (夜7時または夜8時開演)。おまけに、水曜日と土曜日には、昼の2時からのマチネ公演を含め、1日2公演、計6時間!!!!!!

プロのアスリートもビックリ。想像しただけで、ゾッとする。でも、主演の謙さんは、このスケジュールを3ヶ月、1人で体調管理し続けて、やり続けるというのである。

報道によると、単身赴任状態で、リンカーン・センターの近くに滞在するアパートを借りて、食事は、もっぱら自炊しているらしい。お昼ごはん用に、毎日、劇場に、自分で作ったおにぎりを持参するという。日本から奥さんが訪れることもあるようだが、基本は1人。お手伝いさんもいない。

たぶん、公演期間中は、余計なものを一切排除し、全身全霊をかけて、生活のすべてをミュージカル『王様と私』に捧げるため、だろう。

そりゃそうだ。もし失敗すれば、今まで積み上げてきた俳優としての実績が、すべて吹き飛んでしまうリスクすらあるわけで、ある意味、命がけと言ってもいい。尋常じゃない熱意を感じる。

謙さんは、自分がすでに出来ることや慣れたことだけやっているよりも、ギリギリ手が届くかどうかということに、挑戦し続けることにこそ意味があると考えているらしい。

うーむ、すごい発想としか言いようがない。しかも、ただ口で言ってるだけじゃなく、本当に実践していらっしゃるから、もう素晴らしいったらありゃしない。

もしかすると、渡辺謙さんのこうした考え方は、先ほど挙げた以下の疑問:

「いったいどうすれば、近年、ますます世界的に高い評価を受けるようになった日本の文化や伝統や、日本的な価値観や、日本人ならではの国民性や考え方などなどを武器に、チャンスを掴んで、世界で羽ばたくことができるのか?」

に対する1つの明確な答えなのかもしれない。

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