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「ビートたけしのTVタックル」に疑問。引きこもり解決に必要なものとは?

3月21日の「ビートたけしのTVタックル」内で放送された、引きこもり男性を強引に連れ出そうとしたシーンに対して非難の声が上がっています。長らく社会的な問題として指摘されながらも解決の方法が見えない「引きこもり」。記者の引地達也さんは、自身のメルマガ 『ジャーナリスティックなやさしい未来』の中で、TVタックルの手法に反対する立場を表明した上で、これをきっかけにより踏み込んだ議論を展開すべきと訴えています。

「静かな」引きこもりの現場の議論を広げたい

テレビ朝日が3月21日に放送した番組「ビートたけしのTVタックル」で、両親の依頼を受けた支援団体が、引きこもっている男性の部屋のドアを壊して連れ出そうとする様子などが紹介された。これに対し精神科医の斉藤環さんや引きこもり経験者が記者会見し、支援団体が引きこもり当事者をどう喝する様子などにより「精神的に傷つけられた」とし、報道倫理にのっとった放送をテレビ各局に求める共同声明を発表した。

会見では「人権侵害を平然と行いながら(番組内で)否定するコメントがほとんどなく、自分が将来このような扱いを受ける恐れがあるとの不安をあおられた」などと反発した。私は、引きこもり者の社会復帰を支援する立場として、従来から存在する報道と当事者の乖離という構図だという結論に終わらせてはならない、と強く思う。何が二つを歩み寄らせるのかに頭を悩ませ、このままでは誰も幸福にしないという絶望とともに、このニュースは私の心に突き刺さったままだった。

数日後の続報は、この社会を反映する内容で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が「放送倫理の問題として取り上げる理由はない」と結論付けた。川端和治委員長によると、視聴者意見の一つとして委員会で紹介したが、委員から番組の
ビデオや報告書の提出を求める意見はなかったという。つまりは、裁判で取り上げられない限り、この「強引」だと指摘された引きこもり支援の問題は、メディアの取り上げ方の是非を含め、その在り方の議論も深まらないまま、終わりそうである。

引きこもりが社会問題になっているからこそ、支援団体があり、支援方法も私を含め、その手法もそれぞれの工夫の中で苦労している実態がある。今回放送された手法への疑問や拒否反応、番組の取り上げ方もすべて発展途上の中での出来事であり、正しさはこれから社会が作っていくもの、と考えれば議論する機会がないのは寂しい

支援する者として、引きこもる当事者と家族の苦悩に近づかなければ、真剣な対応は出来ない。

私見では、それは根気と体力がいる仕事であり、人が生きることは、人との関わりあい、社会とのつながりがなければ不可能だから、生きることと外に出てつながることはほぼ同義語である。
それを拒否する「引きこもり者」の心持は原因があるからで、傾聴する支援者が当事者自らの熟慮と声に出して表現することを促し、その言葉の積み重ねで原因を探し当てるのもよいし、社会への間口を用意して、一歩を促進することもある。そこには怒声も罵声も暴力もない

静かに語りかけ、関係を構築しながら、一歩一歩の信頼を得ていく「静寂の中の作業である。
この仕事を表現するのは映像化にしても記事化にしても難しい。ウィルバー・シュラムの「ニュースの本質」によるところの「快楽原理による即時報酬」論に突き動かされたセンセーショナリズムで表現される世界ではないのである。

記者会見した斉藤環さんは、本稿でも紹介している精神疾患者を対話で治癒するフィンランドの「オープンダイアローグ」方式を積極的に日本に紹介している立場であり、私自身も、この手法を就労移行支援事業所で取り入れ、家族だけに負担を強いることなく、地域で精神疾患者を治癒する仕組みの構築を目指す立場である。

治癒の現場には、どんな形であれ、暴力は介在してはいけないと考えている。暴力はすべてを崩壊させてしまう。物理的な破壊的な暴力だけではなく、(今回の放送にあったような)怒声さえも、大きな物音さえも必要ない。それら暴力的なものは親和的になろうとしている気持ちを怯えさせ、融和な空間を引き裂き、痛んだ心を回復不能にさせてしまうのである。

今回、記者会見で当事者の声が上がったのはよいきっかけにならないだろうか。社会でできる支援に向けて、ここから議論を展開できないかと考えている。

image by: Shutterstock

 

メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』より一部抜粋

著者/引地達也
記者として、事業家として、社会活動家として、国内外の現場を歩いてきた視点で、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを目指して。
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