九州を我がモノにしようと、各地で征服活動を続けている『ママチャリで日本一周中の悪魔』こと大魔王ポルポルさん。宮崎市で10人前のデカ盛りうどんと対決した後に向かったのは、日本随一の温泉地である大分県別府市。“地獄めぐり”で有名な場所だけあって、大魔王様もこの地をすこぶる気に入られたようで……。
大魔王も思わず惚れ込んだ別府の魅力とは?
宮崎市の「百姓うどん」で腹を十分に満たした我輩は、ママチャリでそのまま北上し、大分県別府市に突入した。
別府市といえば、今回の熊本地震で被害を受けた街。その影響により、今年のGWは観光客の宿泊キャンセルが相次ぎ、街は危機的状況に陥っていると聞いていた。
しかし我輩は、地震による危険など気にしない。今年のGWは別府の温泉に浸かって、のんびりと征服活動を展開していた。
まず我輩が別府に辿り着いて驚いたのは、「湯煙展望台」から見える街並みだ。
街のあちこちから見える温泉の湯けむりが素晴らしい。町全体に漂う硫黄の匂いと、なんともマッチしている。まさにこの街ならではの良さだろう。
そんな絶景をまずは画像で我がモノにしてやろうと思い、我輩は写真を撮ってもらうことにした。
「あのー、すみません……。写真を撮ってもらえますか?」
地元のニンゲンに写真を撮ってもらい、すっかりご満悦な我輩。再び展望台からの景色を楽しむ。
「この場所から見る景色は絶景だ。大魔王の名にふさわしい!! ガッハッハッハッハッハ!!」
この景色を実際に我がモノとしたい……そう決意した我輩は、ひとり温泉街へと向かったのであった。
地震の影響で、観光客が減ってしまったという別府。
そのためか、今なら誰に対しても「お客様は神様です!」な感じなのか、普段は職質を受けまくるほど不審な姿の我輩に対しても、待遇はすこぶる良い。
とはいえ、そこですっかり調子に乗ってしまい、
「おい、そこの貴様! この温泉の街は魔族が支配してやる。喜べ、ニンゲンども! そして恐怖に怯えろ!! ガッハッハッハッハッハ!!」
……などと放言してしまうと、また徳島ラーメンの時のように某掲示板で叩かれてしまうのは明白だ。自粛ムードが漂ういま、過激な発言は控えなければならぬ。
そんなことを考えながら、別府の温泉街を歩いていると、いきなり地元民と思われるニンゲンが、我輩に向かって話しかけてきた。
「アンタ……おっかねぇ顔だ。アンタ……顔色が悪いよ」
しかし改めて思うのだが、この街のニンゲンたちは不審者のような我輩を目にしても、まったく動じない。なぜだろう。
しばし考えて、それもそのはずだと気が付いた。この街には「地獄めぐり」や「地獄蒸し」といった、地獄という言葉で溢れかえっている。別府は地獄の街なのだ。
だから悪魔である我輩は、この地のニンゲンにとって「ちょっと顔色の悪い人」ぐらいにしか見えないのだろう。
地元のニンゲンは、続けてこう言った。
「顔色が良くなる、アンタにピッタリの温泉があるよ!」
地獄に住むニンゲンは、悪魔を温泉に誘おうとしていた。
先ほども言ったように、別府は温泉の街だ。街の至る所に温泉がある。
足湯や手湯はもちろんのこと、「足蒸し」「足岩盤浴」「砂蒸し温泉」「泥湯」など変わった温泉がたくさんある。
そんななか我輩が案内されたのは、世にも珍しい“入場料代わりにお賽銭を入れて入浴する温泉”だった。
「こ、ここは……神の社か!」
我輩は大魔王。お賽銭をもらって崇められる神とは真逆の生き物だ。……もしかして我輩を浄化させるつもりなのか? ふとそんな疑念がよぎった。
「この温泉は……お、お賽銭を入れるんですか??」
浄化されてしまう恐怖に怯えながら、我輩はニンゲンに尋ねた。
しかし、ニンゲンは我輩の話を聞いていないようで、「ほら! 貸してあげるから!」とタオルを渡してくる。別府のニンゲンは、いつでも温泉に入れるように、入浴セットを持ち歩くことが多いらしい。
我輩はタオルとともに浄化される恐怖も抱きながら、10円のお賽銭を入れて建物の中へと入る。そこはとてもシンプルな造りで、シャワーも洗い場もなく、真ん中に湯船があるだけだ。
意を決して湯に浸かると、これまでの旅の疲れがどんどん癒されていく。まるで極楽浄土にいるような気分だ。これでは浄化されてしまってもおかしくない。
10分後。すっかりさっぱりした気分で温泉から出てくると、先ほど案内してくれた人が笑顔で待っていてくれた。
世にも珍しいこの温泉は「鶴寿泉(かくじゅせん)」と言われ、地元のニンゲンたちに愛されているらしい。
先ほどは気づかなかったが、建物の入り口にはお地蔵さんが2体立っていた。悪魔ながらも、お地蔵さんを見ると祈らずにはいられない性分の我輩は、そっと手を合わせる。
「早く別府に観光客が戻ってきますように……」
温泉から出ると無性に腹がへっていた。
そこで我輩は、案内してもらったニンゲンに、別府のおすすめ料理を聞くことにした。
「おい! 我輩は腹がへった! 貴様、何か食べるものを用意し……あ、どこかに何か食べるところないですか」
するとニンゲンは、とっておきの食べ物があると、近くの店に案内してくれた。
その店の名前は「桃たろう」。見たところ、とてもオシャレな店だ。
中に入ると、店の雰囲気にそぐわぬ奇妙な食べ物が目に入った。我輩のママチャリと同じような漆黒の闇の色をした球体。そこからは、大魔王をも闇へと引きずり込みそうなオーラが放たれている。
「な、な……なんだ! これは! またまた我輩を浄化させる気か!?」
そう訝しむが、とはいえ腹がへっては戦ができぬ。我輩は思い切って、それをひとつ手に取って噛り付く。
「ん……! ウマい! これは素晴らしいたまごだ!! ガッハッハッハッハ!!」
それは、ゆでたまごだった。黒いのは殻だけで、中身は普通にゆでたまご。黄身も黄色い。
少し邪悪なオーラを放っているが、浄化されることはない。その事実に安心した我輩は、思う存分「黒タマゴ」を堪能し、次なるオススメの店に向かうことにした。
しかし! 次なる店は大人の事情……いや魔族の事情で、場所などの詳細を明かすことはできない。
その店のオススメは蒸し料理だ。
別府のニンゲンは、あたかもバーベキューをするような感覚で、その場所に思い思いの食材を手にして集まり、それらを蒸して食べるらしい。1億年以上生きている我輩も、これは初体験である。
食材のほうは、先ほどから案内してくれているニンゲンが、全て用意してくれた。芋、鶏肉、枝豆、野菜などなど……新鮮な食材を思い思いに蒸していく。
「ガッハッハッハッハ!! これは楽しい! 楽しいではないか!」
鶏肉を蒸すというのも、いかにも大分県らしい。大分県は鶏肉の消費量日本一。だから鶏肉を食べる機会が多いのだ。
大量の湯気で蒸された食材を、ハフハフしながらかぶりつくと、食材そのものの良さが引き立った素朴な味わいが、口の中に広がる。鶏肉も余分な脂分が適度に抜けており、とってもヘルシーだ。
「これは美味!! まさに別府ならではの食のエンターテイメントだな!! ガッハッハッハッハ!!」
我輩の咆哮は、湯気とともに空へとのぼっていった。
そんなこんなで我輩は、その後も別府に3日間ほど滞在し、その魅力を思う存分に満喫したのであった。
我輩が目にした限りでは、テレビなどで報じられているような、地震の大きな爪痕といったものは、あまり感じられなかった。もちろん、屋根の瓦が落ちている家や壁が壊れている箇所は所々あったが、街を行くニンゲンたちの様子は平静そのもの。飲食店や旅館も、通常通りの営業をしているところがほとんどだ。
そんな震災直後の別府で見つけたものは、実にオモシロいモノばかりであった! 変わった温泉、黒タマゴ、蒸し料理……これ以外にも、我輩が見つけられなかった魅力の数々が、別府にはきっと散らばっていることだろう。
「これは早く魔界に報告しなくてはいけない!」
そう思い、今回の筆を執った次第だ。
「別府にはオモシロい場所がたくさんあるな!! 今回の地震で被害を受けた場所の復興が一日でも早く叶うよう、魔族一同、心から祈っておるぞ。そしてなによりも観光客の数が元に戻り、以前のような賑やかな街に復活して欲しいものよ。ガッハッハッハッハッハ!!」
名残惜しい気分を振り切りつつ、我輩は再びママチャリに跨り、次なる目的地へと向かうのであった。
DATA
鶴寿泉
住所:大分県別府市明礬3組
定休日:不定休
営業時間:7:00~20:00
桃たろう
住所:大分県別府市明礬4組
定休日:水曜日(その他、不定休あり)
電話番号:0977-67-5822
営業時間:10:00~17:00
『大魔王ポルポルの日本征服の旅』
著者/大魔王ポルポル
日本一周の旅をしている大魔王ポルポルである。旅の裏側、隠れた小話など話したいことは盛り沢山!! だがしかし! タダで公開はできない。メールマガジンで日本のいろいろなことを掲載するのだ。メルマガに記載のアドレスに悩みや質問を送ってくれればメルマガで公開回答するぞ! ガッハッハッハ!!
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