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どうしたニッポンのモノづくり。世界との差は二度と埋められないのか?

どうしたニッポンのモノづくり。世界との差は二度と埋められないのか?

先日、ソニーが現在注目されている「人工知能(AI)」をアメリカのコジタイ社に資本参加し共同研究していくと発表しました。かつてはAIで世界のトップを走っていたソニーが、聞き慣れないベンチャー企業に資本参加する、という皮肉。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、ソニーのみならず日本の企業が抱える深刻な問題、そして日本のモノづくりの未来が論じられています。

時代遅れの日本のものづくり…復活のチャンスは?

今日は、「ニッポンのモノづくり復活はあるか?」。ソニーが5月18日付で人工知能AIに力を入れると発表。アメリカの人工知能の会社コジタイ社(Cogitai)に資本参加し、共同で研究を進めていくことになった。

先導からスタートアップへの出資

ソニーは人工知能研究を先導し、犬型ロボットのAIBO(アイボ)を1999年に発売した。AIBOのAI(アイ)は人工知能を意味している。AIBOは2006年に販売が中止となったが、それから10年後逆に人工知能に力を入れていくことになった。かつてトップだったソニーがアメリカのベンチャー企業に資本参加するというのは、非常に皮肉なことである。そして、この発表をしたのはかつてAIBOを手掛けた担当者であった…。

コジタイ社はほとんどなじみはなく、昨年9月にアメリカのカリフォルニアで創業した会社。創業メンバーには2007年に人工知能分野での最も栄誉ある賞の1つであるThe Computers and Thought Awardを受賞した方がいる。ソニーとの提携のきっかけは社長がAIBOのファンだった。AIBOにあこがれた人の会社にAIBOを作ったソニーが参入させてもらうという意味でもなんとなく皮肉な気がする。また、この10年で逆転現象が起こってしまったともいえる。

アメリカは戦略的にITを育成したが…

これは日本が見誤ったということの表れでもあるようにも思う。背景には蔓延したリストラ病、2005年にCEOに就任したストリンガー氏が推進したリストラの中に含むAIBO事業を撤退がある。

しかしながら、AIBO撤退後アメリカでは人工知能研究が隆盛。これはアメリカが戦略的にITを育成してきたことの表れでもある。アメリカでIT企業がいかに伸長したのかが時価総額の変遷に象徴されているので紹介したい。

抜きん出るバブル絶頂期の時価総額

1989年バブルの絶頂期の3月末の時価総額ランキングでは上位15社中、12社が日本企業。30位までの表をみると1位はNTT、モノづくりの会社では11位トヨタ、13位新日鉄、15位松下(現パナソニック)、17位日立、25位三菱重工、27位東芝、金融も多数入っている(参考資料:89年5月8日号 日経ビジネス)。

様変わりした世界

それに対して、2016年4月末時点の世界企業の時価総額ランキングの30社の中には日本企業は入っていない。以下のランキングをみてわかるように、この20年ほどでIT関連企業が伸びているということがわかる。主な順位は以下の通り(参考資料:世界時価総額ランキング)。

1位:アップル
2位:アルファベット(googleの持ち株会社)
3位:マイクロソフト
4位:エクソンモービル
5位:バークシャー・ハサウェイ(世界最大の投資会社)
6位:フェイスブック
7位:アマゾン
8位:ジョンソン&ジョンソン
………
33位:トヨタ日本企業最上位

なぜこの20年ほどで日本は様変わりしたかというと、1つはバブルの崩壊で手一杯という要因が非常に大きい。それと同時に日本企業の大きな構造変化がある。次の時代を牽引する製品は何か、IT、バイオ、人工知能といった分野に気が付かなかったといえる。

欧米先進国にルールづくりでも敗北

なぜそうだったのかというと、経済摩擦と冷戦終結が主な要因であると思う。経済摩擦によって、さまざまなルールが変更された。例えば四半期ごとの開示の義務化や、土地や不動産などの含み資産を開示し株主に還元する時価会計主義などがある。それまでの日本の企業は利益を内部留保として保有し、中長期の投資に充当するなどして頑張ってきた。しかしながら、それが出来なくなったのである。

さらに、冷戦終結により、東西経済が融合。旧東欧、中国、インド、東南アジアなど安い労働力にのっとった新興国が台頭してきた。そこに技術移転が加わり、結局日本は元に戻れないという状況に陥った。

構造変化に気が付かず…

本当はこの失われた20年の間にこの構造変化に気が付き、新たなことに取り組んでいればよかったのだが、それが出来なかった。さらにその間、先に述べたように欧米先進国に有利なルールに変更されたり、新興国に追いつかれた。その結果イノベーションにも弱くなった

アメリカは冷戦で不要になった宇宙防衛技術を民間に開放したことで、IT、スペース(宇宙)、バイオ、人工知能などのベンチャーが育ち、時価総額の上位を占めるまでの企業に成長した。

Mr.リストラが日本を破壊

その半面日本は、バブルの衰退の対応に追われ、大企業ゆえ小回りが利かず新たな事業が育っていない。その中でソニーのAIBOは研究開発の縮小のみならず人材も流出。社内では閑職に追い込まれ、仕事を求め韓国や中国の企業に移るケースも少なくなかった。私はこの当時随分取材したが、トップと共に部下も働く場を求め他社に移ったことで韓国や中国の企業が強くなり日本が弱くなるという現象に至った。

また、ソニーや家電メーカーを辞め海外で活躍している人も多い。ストリンガー氏の事は昔この番組でも取り上げたことがあるが、ストリンガー氏はアメリカでもMr.リストラで、日本もリストラの嵐が吹くぞと言っていたら案の定そうなった。さらに、ストリンガー氏はモノづくりよりも映像などソフトに力を入れ、ソニーもそういう会社に変貌してしまった。

モノづくりを怠る

ここ数年間、日本では三菱自動車、旭化成建材、三井不動産、東芝、東洋ゴム、タカタなど企業不祥事が相次ぎ、日本のモノづくりはどうなっていくのかということもいわれている。モノづくりを怠っている間に、アメリカでは新しい次世代を担う製品が伸びてきたことが、今回のテーマの大きな問題である。

しかしながら最近、日本は反省し、新たな流れが出てきた。今回のソニーの人工知能への取組みも1つの流れだと思うし、企業では新たな分野を拡大するため研究開発費を拡大しようという動きも出ている。昨年の日経新聞の調査(研究開発活動に関する調査)では、過去最高の研究開発費を投じた企業が約3割あった。投資内容も人工知能など新たな製品を作り出そうとしている。

ベンチャーの育成を

私は新たな分野の拡大をベンチャーがやるべきだと思う。大企業は小回りがきかず、ベンチャーがこういう取り組みをすることが日本を強くする要員の1つになるように思う。これに対し、もっと国が後押しするような政策をやっていくべきだとも思う。

他方、日本人全般がまだ大企業のほうがよいという信仰があり、若い人で大企業を目指す人も少なくない。はじめからベンチャーでチャレンジするんだという人たちが、最近ようやく出てきた。日本は少し遠回りしたが、戻れるように頑張って欲しい。私は日本人は基本的に優秀だと思うので、なんとかなるのではないかとも思う。

この20年の世界の時価総額のランキングに日本企業が非常に少ないのも悲しいことであり、中国企業が台頭してきて中国とアメリカの台頭になっている。あっという間に変わっていくだけに、日本企業の復活を切に願う。

※なお、ブログでは、1989年の世界の時価総額ランキング等の画像を掲載しております。ご興味をお持ちの方は合わせてご覧ください。

時代を読む 

(TBSラジオ「日本全国8時です」5月31日音源の要約です)

image by: Shutterstock

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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