MAG2 NEWS MENU

日本に抜かりはないか?パラリンピックを成功させてこそ「一流国」

不祥事ばかりが露呈し、波乱含みの東京オリンピックですが、果たして日本の「おもてなし」は世界に通用するのでしょうか? 無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で嶌さんは、国の成熟度が試されるのは「パラリンピック」であり、日本は今から企業や国民一丸となって全力で準備に取り組むべきであると提言しています。

国の成熟度試されるパラリンピック ─20年五輪は何をめざすのか─

2020年の東京オリンピックをめぐる相次ぐ不祥事が次々と明るみに出ている。しかし、パラリンピックの話題は活躍しそうな一部の選手のことが時々報道されるだけだ。だが、近年は「オリンピック・パラリンピック」と同等の扱いをすることが望まれ、2012年のロンドン「オリンピック・パラリンピック」は、今後のモデルとして語られている。日本ではパラリンピックに向けた対応に抜かりはないのか

パラリンピックの競技だけでなく、見に来る障がい者の対応もきちんとしていないと、先進国・日本の障がい者、弱者へのもてなしや品格も問われよう。

パラリンピックは、オリンピックより小さい別枠の大会だと思ったら大間違いだ。オリンピックは28競技、306種目だがパラリンピックは22競技、528種目(男264、女226、男女混合38)もあるというから驚く。オリンピックは体重別などによって競技の種目がいくつもあるように、パラリンピックも障がい度や体重などによって分けられるので種目数が多くなるのだ。それにしても500種目も運営するのは大変なことで関係者の苦労も並大抵ではない。ボランティアなどの助力がないと、運営も困難だろう。

障がい者も健常者と同様にかつ一緒にスポーツを楽しむ機運が世界的に高まってきている。2012年のロンドンは、これまでの中で最大にして最高の大会だったといわれる。観戦チケットは270万枚も売れ、過去最高の北京大会の180万枚を大きく上回ったし、競技場や施設だけでなく、障がい者の見学もしやすいように街のバリアフリー化や会場に近い駅にはエレベーターを設置。階段しかない駅では誰かが必ず手助けするのが当たり前のように習慣づけられたという。

ロンドンでは、障がい者がより多くスポーツを楽しめる環境づくりが整備され、健常者と一緒にスポーツを楽しめる配慮もあちこちで行われている。そのせいか、イギリスでは週3日以上スポーツする人が20%を超えているという(日本は8%)。

ロンドンパラリンピックには史上最多の164ヵ国から4,200人の選手が参加、開会式は1,120万人、閉会式は770万人が式典を視聴したとされる。また、ロンドン大会で活躍した選手はオリンピック、パラリンピックの出場者の区別なく約800人がオープンカーに乗ってパレードし、沿道から拍手を浴びたと言われる。またテレビやインターネットの中継は合計400時間以上に及んだというから本当に国民的行事になっているということなのだろう。

パラリンピックの精神とは……

パラリンピックはもともとイギリスが起源で、第2次大戦で損傷した傷痍軍人のために車椅子アーチェリーを催したことから始まったとされる。イギリスでは障がいがあってもスポーツを楽しむ雰囲気が国中にあり、ある種の成熟した国家を思わせる。日本でも最近、道や電車の中で車椅子に乗ったり、障がいのある人を手助けする光景が見られるようになってきた。

ただ、100ヵ国以上の国から4,000人以上の選手がやってきて、それを見物する観客も大勢訪問した時、日本はどう対応しようと考えているのか。健常者のオリンピックのことでこれだけもめていることを考えると、はたしてパラリンピックの運営やバリアフリー化、資金補助、本当の「おもてなし」などの準備も進んでいるかと気にかかってくる。日本が成熟した国であることを示す良い機会がパラリンピックの運営と国民の協力だろう。

企業も巻き込んで本当の「オリンピック・パラリンピック」の成功へのスケジュールと協力体制を、今から準備しておくべきだろう。オリンピックのメダルの数だけを気にしていたら日本のおもてなし精神もそんなものか」といわれかねない。

オリンピックがどんどん商業化し、アマチュアだけでなくプロ選手も出場できるような時代だ。現在の東京オリンピック論議は、国立競技場の新建設のムダな資金やデザイン、主催する東京都の舛添前知事のスキャンダルなどの話ばかりが先行し、一体どんな東京五輪にしたいのかという精神や哲学はそっちのけになっている。1964年の東京五輪は日本中が湧いていくつかのレガシー(遺産)を残し、スポーツ振興の大きなきっかけにもなった。

2020年まであと4年、どんなオリンピックにするのか、国民的議論はほとんどないし、協力する企業はかなりの資金を出すのだろうが、企業からの声も聞こえてこない。今のままの雰囲気で進むと、国民の関心は薄れてしまうのではないか。どんなスポーツ健康国、障がい者スポーツ支援の国を目指すのか、一部の五輪関係者の話にするだけでなく、そろそろ国民の東京五輪に向けた本音や方向性を聞いておいた方がよいのではないか。

(TSR情報 2016年6月27日)

image by: Jane Rix / Shutterstock.com

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け