動機は?
彼らがクーデターを狙った動機は何なのでしょうか? トルコはもちろんイスラムの国ですが、建国から面白い方針を掲げてきました。トルコ共和国の建国は1923年ですが、その時から「世俗主義」を国是としてきたのです。「世俗主義」とは要するに、「政治と宗教が分離されている」ということです。つまり、「イスラム教が政治を支配することはない」と。
1923年のトルコ共和国建国以来、「建国の父」ケマル・アタチュルクが率いた軍は、厳格な政教分離で公の場から宗教色を排除する世俗主義など建国の国家原則の「守護者」を自任する。世俗主義は憲法にも明記された国是だ。
(朝日新聞デジタル7月17日)
この国是のおかげで、トルコは欧米諸国とも比較的良好な関係を築き、NATOにも加盟している。そして、面白いことにトルコでは、軍隊が、「自分たちは民主主義の守護神だ」との誇りをもっている。
為政者が民主主義を逸脱した場合は、クーデターを起こして政権を崩壊させる。しかし、クーデター後は、軍が政権を奪ったままにせず、再び「世俗主義」「民主主義」に戻していく。
「非民主的クーデターを起こして、民主主義を守る」というのはなかなかわかりにくい論理ですが…。しかし、軍は、建国後3回クーデターを起こし、いずれも成功させてきました。
トルコ軍は1960年、71年、80年と過去3回、クーデターなどで権力を奪取した。
国是とする「政教分離」の危機、政党政治の混乱、経済の長期低迷など、軍は「このままでは秩序を維持できない」と判断した場合に実力を行使し、混乱を治めた上で民政に移管させる役割を担った。
(同上)
ところが、「強すぎる軍隊」が気に入らない男が政権につきます。それが、今のエルドアン大統領。
ところが、2002年にイスラム保守の公正発展党(AKP)政権が発足。03年に首相になったエルドアン氏は、政治に介入しつづけた軍の力をそぐ闘争に着手し、両者の緊張は一気に深まった。
AKP政権は国民の支持を得て長期安定政権を維持し、トルコは中東屈指の経済大国に成長。エルドアン氏自身も14年8月、トルコ初の直接選挙で大統領に当選した。エルドアン氏は国民の高い支持を背景に、自分に従わない軍幹部の追放に成功。軍が政治介入できる力は大きく弱まったとみられていた。
(同上)
さらにエルドアンは、軍が守ってきた「世俗主義」を大幅に修正し始めました。
AKPの事実上のリーダーとして実権を握るエルドアン氏は近年、公の場でもイスラム重視を語るようになり、世俗主義に反するとの批判を受けるようになった。こうした状況を危惧した軍の一部が、世俗主義の徹底を目指して、今回のクーデターを企てた可能性がある。
(同上)
「権力を失いつつある軍の反発」
「世俗主義を捨て去ろうとする大統領への不満」
さらに、
「強まる独裁傾向」
「非民主化」
「言論の弾圧」
「クルド人弾圧」
などへの不満があったのでしょう。ちなみに、昨年11月トルコに戦闘機を撃ち落とされて関係が悪化したロシアでは、「軍の一部は、エルドアンが人類の敵『イスラム国』から石油を密輸し、私腹を肥やしているのが許せないのだ!」と報じられていました。
これ、新しい読者さんには「トンデモ話」に聞こえるでしょう。しかし、事実です。読売新聞2016年11月28日付をじっくり読んでみましょう。
欧米情報当局「イスラム国がトルコに石油密売」
読売新聞1月28日(土)10時22分配信
【パリ=石黒穣】イスラム過激派組織「イスラム国」から大量の石油がトルコに密輸されているとの見方は、欧米情報当局の間でも強い。
米軍特殊部隊は今年5月、シリア東部で「イスラム国」の石油事業責任者を殺害した。英有力紙ガーディアンは、同部隊がその際押収した文書から、「トルコ当局者と『イスラム国』上層部の直接取引が明確になった」と伝えた
反乱軍に勝利したエルドアンさんですが、「ダークサイド」があることも、知っておいた方がいいでしょう。