人間の不合理な思考プロセス
さて、ここまで読んでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、上記の実験には心理学だけでなく、確率統計的な側面も含まれてきます。おっと、難しい話が出てきました。でも、難しい話はしないので安心してください。
人は、確率統計的な事実は曲げられないのに、それでも自分はその確率統計通りにはならない!と信じてしまう傾向があるのです。これが過度な過信に繋がってしまうことが多々あるのです。そして次の例では、確率論を無視してさらに不合理な判断をしてしまう人間の心理が浮き彫りになる例を示しています。
ある職場で、2組の全く同じプロ野球選手の写真のカードセットを使って実験が行われました。1組のカードセットは箱の中に置かれ、後からその中から1枚だけランダムに取り出せることになっています。そしてもう1組のカードセットは、被験者に1枚ずつ配られます。ただし被験者の半数は好きなカードを選ぶことができ、残りの半数の被験者はただ渡されるだけです。そして箱の中から引いたカードと同じカードを持っている人に、賞金が与えられるというルールになっていたのです。
すべてのカードが配られたところで、新たな被験者が1人加わって、カードを買いたいと申し出ます。カードを保有する被験者達は、いくらかの価格でカードを売却するか、それとも賞金を当てることに賭けてカードを保有するかの選択をすることになります。
言うまでもなく、どのカードも賞金にありつく確率は同じです。にもかかわらず、カードを売ってもいいと思う価格は、自分で選んだ被験者グループの方がただ渡されただけのグループの価格よりも、例外なく高くなるのだそうです。
ちょっとややこしいゲームですが、被験者の気持ちを代弁するとこうなります。
「自分で選んだカードの方が、思い入れもあるし、賞金を当てる可能性が高いかもしれない。だから売るとするならば、ただ渡されたカードよりも高くてしかるべきだ!」
もちろん、自分で選ぼうがただ渡されようが、賞金が当たるかどうかの確率は同じです。しかし、人はしばしばこうした根拠のない判断をしてしまうのです。
皆さんは「ナンバーズ」という宝くじをご存知かと思いますが、あれは自分で当選番号を予想して選べる形式のくじです。こういった「自分で番号を選べる」方式のくじは、上記の実験で観察される心理的誤りをうまく逆手にとっているのです。
「自分で番号を選べるならば、ランダムに引く番号よりも当たる確率が高いかもしれない」という間違った認識を産んでしまうのです。さすがにそこまで間違っていない人でさえ、自分で番号を選ぶことで思い入れ(もしくは思い込み)ができるのです。こうして、普通に引くくじ引きよりも購入者には魅力的に映り、よりくじ引きが売れるわけです。
いかがでしょうか?ややこしいかもしれませんが、ここまでをまとめるとこうです。
「人は、確率を無視して自分に都合の良い判断をしてしまう」









