なぜ宮本武蔵ほどの剣豪が「果たし合いには応じるな」と教えたのか?

 

私はこの話を読んだとき「弁護士の仕事と似ているな」と思いました。

弁護士の仕事というと、常に法廷で勝つか負けるかの勝負をしていると思われがちですが、紛争では、まず戦わずして解決する道を全力で探ります。むやみに対立をあおってはなりませんし、力試しをしようと勝負を挑むなどもってのほかです。

そして、いざ勝負となったときは、似たような事件を何度経験していても、一つとして同じ事例はありません。細心の注意を払って案件を分析し、攻撃・防御を行います。

弁護士になって3年から5年たつと、さまざまな事件を経験し、交渉や裁判の有利な進め方などのテクニックも覚え、どんな仕事も完璧にできると、まさに「達人」になった気分になるものです。私もそのような時期がありましたし、ほかの弁護士に聞いても、3年から5年でそう思うことが多いようです。

しかし、だいたいそういう時に手痛いミスをします。大事な証拠を見落として依頼者を不利に陥れたり、当事者の話をしっかり聞いておらず、重要な情報を聞き逃したり、相手を甘く見て、圧倒しようと攻め立てたところ、足元をすくわれたりといった大失敗を経験することが多いのです。

仕事に慣れてくると、いっぱしのプロフェッショナルになったと感じます。小手先のテクニックで他人を打ち負かすことに喜びを見出している方もいるかもしれません。

しかし、最大の敵は、自分を過大に評価するその慢心です。本当に勝負すべき時のために、自分に厳しく、鍛錬に励んでいきましょう。

「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす」(宮本武蔵)

今回は、ここまでです。

 image by: Shutterstock
 
 
弁護士谷原誠の【仕事の流儀】
人生で成功するには、論理的思考を身につけること、他人を説得できるようになることが必要です。テレビ朝日「報道ステーション」などでもお馴染みの現役弁護士・谷原誠が、論理的な思考、説得法、仕事術などをお届け致します。
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