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故カストロ前議長を「残忍な独裁者」と批判するトランプ外交の不安

50年以上の長きに渡りキューバを率いてきたフィデル・カストロ氏の逝去を受け、哀悼の意を表明したオバマ大統領。しかしトランプ氏は「残忍な独裁者が死んだ」といった、現大統領が果たしたキューバとの「歴史的和解」を破却するかのような発言を重ねるなど、その外交姿勢に国内外から不安の声が上がっています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「AIIB事件」以降のオバマ大統領の外交手腕を高く評価した上で、現政権と「戦略観」を共有するつもりのないトランプ氏のやり方では世界に敵を増やすだけだと指摘しています。

トランプ外交への不安 キューバ国交再断絶?

キューバ革命の父フィデル・カストロさんが11月25日、亡くなりました。90歳でした。トランプさん、キューバに関係してこんな発言をしています。

トランプ氏、キューバ国交再断絶を示唆 「より良い取引」要求
AFP=時事11/29(火)4:58配信

 

【AFP=時事】ドナルド・トランプ(Donald Trump)次期米大統領は28日、キューバとの国交正常化に向けた取り組みについて、キューバ政府が大幅な譲歩に踏み切らなければ打ち切る用意があると発言した。バラク・オバマ(Barack Obama)現政権が尽力してきた歴史的な和解が立ち消えになる可能性も出てきた。

これ、どうなのでしょうか?

オバマの悲惨な外交

間もなくオバマさんの任期が終わります。「史上最悪」とか「史上最弱」とか言われてかわいそうですが。私は、「立派な大統領だ」と思っています。

理由、アメリカと世界経済を破局から救ったこと。オバマさんが大統領になったのは、09年1月。つまり、リーマンショックの4カ月後。まさに最悪の時期に大統領になった。しかし、アメリカと世界経済を破局させませんでした。8年の任期が終わりつつあり、世界経済には再び暗雲が漂っています。しかし、「震源地中国か?ドイツか?」と言われていて、「アメリカから危機が起こる」という人は、あまりいません。

そんなオバマさんですが、外交の方はかなりひどかった。特に2013年、14年は、最悪でした。2013年8月、「アサドを倒すためにシリアを攻撃する!」と宣言。しかし9月、「やっぱ戦争やめた!」とドタキャンし、世界を仰天させます。

2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシアのヤヌコビッチ政権が倒れた。同年3月、ロシアがクリミアを併合。同4月、ウクライナ内戦ぼっ発。アメリカは、親欧米ウクライナ新政権を支援。ロシアは、ウクライナ東部親ロシア派を支援。ウクライナ内戦は、米ロ代理戦争になってしまった。

同8月、オバマ・アメリカは、「イスラム国」(IS)への空爆を開始。しかし、ISは、テロをする一方、アメリカの敵アサド政権と戦ってもいる。それで、アメリカの空爆は、やる気なし。ちなみに、シリア内戦も、米ロ代理戦争です。ロシア、イランは、アサド政権を支援。アメリカ、欧州、サウジ、トルコなどが反アサドを支援している。

こうして、アメリカは13~14年、ウクライナとシリアでロシアと代理戦争を戦い、いたずらに国力を疲弊させていた。「二頭のトラが戦うのを山頂から眺める」中国は、ちゃっかり南シナ海埋め立てを進めてしまいました。

そして、2015年3月、「AIIB事件」が起こった。イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などなど、ほとんどの親米国家がアメリカの制止を無視してAIIBへの参加を決めた。「世界57か国は、オバマではなく習近平のいうことを聞く!」。この衝撃的事実は、オバマを目覚めさせました

天才リアリストとしてのオバマ

「AIIB事件」でオバマは生まれ変わりました。「世界中すべての問題を解決して、中国と戦わなければ!」と決意した。

ウクライナでは2015年2月、ドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの首脳が集まり、「停戦合意」が実現した。オバマは、ウクライナに武器を大量に送ることで、これをぶち壊そうとした。しかし、2015年3月の「AIIB事件」を受け、ウクライナ停戦を黙認することにしました。

2015年5月、アメリカは「南シナ海埋め立て問題を大騒ぎし始めた。日本の新聞にも「米中軍事衝突の懸念」という記事が載った。同月、ケリーさんは、クリミア併合後はじめてロシアを訪問。「制裁解除」の可能性に言及し、ロシア国民を驚かせました。

2015年7月、歴史的「イラン核合意」。2016年2月、シリア内戦停戦(後崩壊)。

このように、オバマは「AIIB事件」後、

を、急いで解決し始めた。そして、2015年9月、訪米した習近平をさんざん冷遇した。要するに、「欧州、中東問題を解決して、中国問題に集中する」。

世界戦略の一環としての、アメリカーキューバ和解

そして、オバマは、キューバとも和解します。「AIIB事件」があった翌月の2015年4月、フィデル・カストロの後継者ラウル・カストロ議長と会談。米―キューバ首脳会談は、実に59年ぶりでした。

同年5月、アメリカは、キューバの「テロ支援国家指定」を解除。同7月、アメリカーキューバ、国交回復。これも、極めて戦略的な動きです。中南米にとって「反アメリカのシンボル的存在」であるキューバと和解することで、中南米を味方につける

このように、オバマは任期最後の2年で中国以外のすべての問題解決に道筋をつけたのです。

トランプ外交への不安

トランプさんは、「イランとの核合意を破棄すると宣言しています。キューバとも国交を再断絶する可能性を示している。

これは、トランプさんが、オバマさんと「戦略観」を共有していないことを示しています。実際、トランプさんの演説を聞いて感じていたのは、「外交安全保障に関する話がほとんどない」ということでした。

「日本、韓国、サウジアラビア、NATO加盟国にもっと金を払わせる!」
「朝鮮戦争が起こっても、アメリカは関わらない」
「イスラエルを永遠に守る!」
「南シナ海でどう動くか、話したくない」

などなど、何の戦略もなさそう。心配になりますが、政治経験のない経営者なので、仕方ない。これからいろいろな人のアドバイスを聞き、まともな外交戦略を構築して欲しいです。

ちなみに、トランプが、社会主義キューバのような国に強硬なのは、日本にとっていいかもしれません。中国も共産党の一党独裁国家ですから。しかし、アメリカ自身にとっては敵を増やすだけの結果になるでしょう。キューバとの関係は、「キューバとだけ」の関係ではない。キューバとの関係が悪くなれば、南米全体との関係も悪くなるのですから。

image by: JStone / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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