子どもの頃、幼稚園で習った讃美歌がある。
「数知れぬ世の子らを 神様はみな愛しひとりずつ目をとめて守られる いつも」
ああ、本当に、そうだったらどんなに幸せだろうか。
遠くからでもいい、死ぬまで会えなくてもいい。
ずっと愛してくれて見守ってくれる存在があれば、私たちはどんなに心強いだろう。
だが、大人になって私は知った。
見守ってくれる存在などないのだ、と。
神がいるなら何故、これほどの不幸、これほどの嘆き、これほどの孤独がこの地を満たしているのか。
私たちは何故、こんなに絶望しながら生きていかねばならないのか。
神は私たちの幻想でしかない。
それでは、私たちの「宛先不明の電報」は誰に届くのか。
SNSで孤独な電報を打ち続けている人々の言葉は、いつか誰かに届くのか。
届くかもしれないが、それは神ではなく人だ。
人は、神になれない。
ツイッターなどで「うさぎさんの信者です」という人がいるが、たとえ本人は褒めているつもりであっても、私はそういう言葉が心の底から嫌いである。
私は神でもなければ教祖でもないし、そんなものになる気も毛頭ない。
勝手に理想化して祀り上げるのはやめてくれ。
私は一介の愚かな人間であり、多くの過ちに満ちており、「正しさ」などとは無縁なのだ。
ただ、ネット上で私の元に届いた電報には、私は精一杯返信を打つ。
それは神の言葉ではなく、同じく悩める無力な人間の返信だ。
神なき時代に、人はそうやって寄り添いながら生きていくしかないと私は思っている。
source: 中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話
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『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』
著者:中村うさぎ
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