「今はメールとかありますし。移動中でもスマホで確認できますしね」
書類に目を落とす田代慶一社長の口から出たのは予想できるごく当たり前の答えだったが、撮影スタッフたちもメールは使っているから、どうしても納得ができない。
「でも、定例会議などないと、社内の意思疎通をするのは難しくないですか」
と、ディレクターは問いかける。すると、田代慶一は手にした書類を机に置くと、ディレクターに視線を向けて、やさしく問いかけた。
「あなたのご両親は健在ですか? 兄弟や姉妹はいらっしゃいますか?」
「あ、はい。田舎の実家に両親はいます。兄弟は、兄が一人、妹が一人います」
ディレクターは少し戸惑いながらも答え、それに対して田代慶一はやさしく微笑む。
「そうですか。あなたのご家族は、家族会議をやりますか?」
「家族会議…、ですか? いや、やらないです」
「うちも同じです」
「え、あ、いや、昇二専務はご兄弟だから確かに家族会議は要らないかもしれませんが、ご家族ではない他の重役の方々とか、社員の皆さんとは、会議が要るでしょう?」
「我が社は我が家みたいなものだから、弟も社員も、同じ家族みたいなものですよ」
「しかし、社内の意思疎通は……」
「意思疎通を図るために会議が必要だ、というのであれば、もう家族のように意思疎通はできているので、うちではそういう会議は要らないです」
「でも、みんなが集まって直接話すことで分かり合えることもあるのでは…」