温泉の専門家でもある友人に「どう説明する?」と聞いたことがあるが、その回答は「注ぎたてのビールと気の抜けたビールの違い」というものだった。
これはこれで、あながち間違っていないと思う。 ビールを飲む人であれば、飲み会の翌朝にグラスに残ったビールのマズさをよく知っているはずだ。
一方、瓶ビールでも、開栓してグラスに注いだものをすぐに飲むのと比べ、開栓した瓶に残ったまま翌朝を迎えたものを再度冷やしてグラスに注ぎ、すぐに飲んだらやっぱりおいしくない。 温泉に置き換えて、二酸化炭素泉を例にとれば、フレッシュな温泉は泡つきがいい、ということに似ている。
泡が付かない炭酸泉というのは、やはり気の抜けたビールのようなものだ。
湯の新鮮さを表す数値に、昨今話題になっている「酸化還元電位」というものがある。 これは過去のメルマガでも簡単に書いていて、拙著『温泉失格』でも詳述している。 短く解説はできないので、別の機会に書こうと思うが、要するに湧き立てホヤホヤの湯は「還元力」を持っていて、空気に触れるなどして酸化することで鮮度を失って行くということを数値化しているわけだ。
すると、フレッシュな湯というのは酸化していない湯であるともいえる。
硫黄泉や含鉄泉などは、空気に触れて酸化し、白濁したり、赤褐色に濁る。「温泉の老化現象」ともいわれる。
ただし、そうはいっても、にごり湯はすべてフレッシュ感がないかというと、案外、そうではないというのが僕の印象だ。 にごり湯は、にごり湯なりのフレッシュ感があるし、鮮度だけを問題にすると湯はみんな湧きたての透明なものがいいという短絡的な考えに陥ってしまう。 湯の色は温泉の大きな個性の一つであるから、酸化していないというだけのことでフレッシュ感を語ってしまうのは乱暴である。
もっとも、酸化還元に関しては、こうしたにごり湯ならばわかりやすいが、問題は単純温泉や塩化物泉、硫酸塩泉、炭酸水素塩泉など、ほとんど透明かそれに近いものの場合である。 還元電位を測ればわかる、という単純なものではない、ということは次の機会に解説するが、こうしたほとんど透明の湯に浸かったときにこそ、フレッシュ感のあるなしをはっきり感じることが多い。
「温泉は五感で楽しむもの」といわれるが、まさしくその通りで、前述した「色」はもちろん、「香り」「味」「肌触り」といった湯の個性を五感で堪能しようと心がけていると「あ、この湯、すごいフレッシュだ」という感覚をいつの日か共有できると思う。
次号では、そうした「香り」「味」「肌触り」とフレッシュ感の関係を、極力わかりやすく解説して行きたいと思う。 どうぞお楽しみに!(つづく)
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