ところがその舞台に、シナリオに書いていない闖入者がノコノコ現れた。石原慎太郎の腹心だった元東京都副知事、浜渦武生だ。
いつも微笑をたたえる小池知事が渋面をのぞかせたのは、2月3日の定例会見で、「浜渦さんからヒアリングする考えは」と質問されたときである。
浜渦氏は、石原氏に丸投げされて豊洲の土地交渉を一手に引き受けていた男だ。石原氏より彼に聞くほうが、よほどよく事情がわかるだろう。実際、石原氏は回答書のなかで、「私自身は交渉に全く関与しておりません。全て浜渦に任せておりました」と述べている。
なぜ、その名が唐突に出てきたかというと、その前日、浜渦氏が名古屋のCBCテレビ「ゴゴスマ」に出演し、豊洲問題や、小池知事との関係などについて長々としゃべっていたからだ。キーパーソンが小池知事誕生後、初めて民放の情報番組で口を開いたのである。
「ゴゴスマ」の録画を見て、謎がひとつ、解けた気がした。
豊洲市場のいきさつを調べるなら、誰よりも真っ先に浜渦氏に聞けばいい。旧知の仲である小池氏が、浜渦氏から情報を得ている様子がないのはどういうことか。そんな疑問があった。
小池都知事が初登庁日に都議会各派をあいさつ回りしたさい、テレ朝の記者が浜渦氏の姿を見て「石原都政で副知事をつとめた浜渦さんも同行しました」と報じた。
てっきり浜渦氏が小池のあいさつ回りに付き添っていたのだと思った。が、そうではなかった。
浜渦氏がたまたま別の用で議会棟の廊下にいたとき、小池氏がたくさんの人を引き連れて通りがかった。小池氏は「あら、ここにいたの」と声をかけ、浜渦氏と握手を交わした。浜渦氏は「東京都のこと何でも聞いてね」と言ったという。
ただし、こんな偶然があるだろうか。おそらく、浜渦氏が小池氏に接触をはかったのだろう。
そう思うわけは、「ゴゴスマ」で浜渦自身が語った話に、小池氏への執着心を感じたからである。
自公の都知事選候補者が決まる前のこと。候補者選定をめぐって自民党都連の役員会が午前中に開かれた日の午後、浜渦氏は小池氏に会ったという。小池氏は愚痴をこぼした。
「下村さんが出てるのよ。私だけ呼ばれないの。都連の会長、幹事長はひどいわね」。下村博文も当時は候補者の一人として名前が取りざたされていたのである。都連会長はもちろん、石原伸晃氏だ。
浜渦氏がそれを石原慎太郎に伝えると、「いや違うんだ。伸晃の話では、案内したけど小池だけ出てこないんだ」と言う。
その後、小池氏は周知の通り、都連や都議会自民党をブラックボックス呼ばわりして出馬し、当人も驚くほどの大勝利を手にする。
だが最初から旋風が巻き起こったわけではない。選挙期間中、小池氏から浜渦氏の携帯に数回、着信があったという。浜渦氏は出なかった。よもや小池氏が勝つとは思わず、あえて接触を避けていたのかもしれない。
小池氏が圧勝し、さぞかし浜渦氏は電話に出なかったことを悔やんだにちがいない。都議会の廊下をうろうろしていたのは、知事になった小池氏に接触をはかりたかったからであろう。ところが、思いのほか、その後の小池氏は浜渦氏につれなかった。