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集団的自衛権は日本の安全保障に必要なのか?

日本の安全保障は従来の個別的自衛権で対応可能で、集団的自衛権などまったく必要ない―。こんな、安倍政権の主張を根底から覆すような説が『未来を見る! 「ヤスの備忘録」連動メルマガ』で展開されています。中国脅威論も大間違いだそうです。

集団的自衛権は日本の安全保障に必要なのか?

安倍政権が国会に提示した11もの法案の「安保法制」が大きな論争の的になっている。なかでも特に大きな議論の対象になっているのが、「集団的自衛権」の容認である。

集団的自衛権とは?

周知かもしれないが、「集団的自衛権」とはなんなのか基本的な事実を整理しておきたい。

「集団的自衛権」とは、自国と密接な国が武力攻撃された際に、自国が攻撃されていなくとも実力をもって阻止する権利のことをいう。日本であれば、同盟国アメリカが攻撃された場合、日本が攻撃されていなくとも反撃する権利を意味する。

「集団的自衛権」は国連憲章によって各国の固有の権利として認められているが、日本は憲法9条の制約によって行使できない状況にある。現行の憲法の解釈で認められているのは「個別的自衛権」だけである。「個別的自衛権」とは、日本の周辺領域で日本が攻撃された場合に限り、これを撃退するための武力の使用を許す権利のことである。

したがって「個別的自衛権」のもとでは、自衛隊が日本の周辺領域を越えて世界各地に展開することはできない。したがって、「集団的自衛権」は明らかに違憲である。しかしもし、「集団的自衛権」が合憲とされ、これの行使が可能になると、自衛隊の海外派兵が可能になる。

これがいま論議されている「集団的自衛権」である。

海外派兵を可能にする「新3要件」

そして政府は、次の「新3要件」が満たされれば、「集団的自衛権」を行使し、自衛隊の海外派兵を行うとしている。その「新3要件」とは次の3つである。

  1. 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(存立危機事態)。
  2. これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。

この「新3要件」の解釈は政府に任されている。そして、政府の国会答弁では、この「新3要件」を満たすならば、アメリカの先制攻撃を追認することはあるとしている。さらに、日本に対して直接の武力攻撃をしていない国に対して、防衛出動、武力行動をすることは法律上可能になり、さらになんと、日本に対する攻撃の意思がない国に対して、日本から攻撃する可能性を排除しないともしている。

これだと、極端なはなし、米軍の地上部隊がウクライナで親ロシア派と交戦状態になった場合、これが「新3要件」の「存立危機事態」として政府が認めるなら、アメリカのウクライナ派遣軍の後方支援として自衛隊を海外派兵することも可能になってしまう。

ということでは、政府が可決を急いでいる「集団的自衛権」の実態は明らかだ。アメリカは、2001年のアフガン戦争と2003年のイラク侵略戦争など世界でもっとも多く先制攻撃で戦争を仕掛けてきた国だが、こうした米軍に自衛隊を後方支援部隊として組み込み、米軍とともに世界各地に展開させるというのが「集団的自衛権」の真の目的だろう。

「集団的自衛権」が可決されると、自衛隊は米軍の後方部隊として世界各地に展開し、日本の周辺領域ではなくても活動できるようになる。

>>次ページ 集団的自衛権は本当に必要なのか?

苦しい政府答弁

そのような状況が明らかであるにもかかわらず、政府は「集団的自衛権」がない限り日本の安全が確保できないというイメージ作りに懸命になっている。「日米同盟の強化によって国際的な責任を果たす」だとか、「国民の安全と平和を守るためには『集団的自衛権』は絶対に必要」などという、意味のはっきりしないイメージが先行した空虚な言葉が飛び交っている。

さらに「集団的自衛権」を支持する人々からは、「尖閣諸島で米軍が中国に攻撃された場合、『集団的自衛権』がなければ自衛隊はこれに反撃できない」とか、「日本の周辺で米軍が北朝鮮に攻撃されているのに、『集団的自衛権』がなければ日本はなにもできない」というようなことがまことしやかに言われている。

「集団的自衛権」は本当に必要なのか?

いま主要メディアでは、こうした議論が散々流されている。「集団的自衛権」がないと、日本の周辺で米軍が攻撃されても日本は反撃できないといったような印象を持ってしまう。テレビをつけっ放しにしていると、イメージ操作に流されてしまいかねない。

でも、本当にそうなのだろうか? やはり自民党とマスメディアの操作に騙されないためにも、一度きちんと確認しておいたほうがよいだろう。

日本の安全保障は「個別的自衛権」で十分

結論から先に言うなら、日本の安全保障は「個別的自衛権」だけで十分に対処可能であり、「集団的自衛権」はまったく必要はない

まず、日本の安全保障の基本になっている1960年の「日米安全保障条約」だが、その第5条には次のようにある。

「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」

ちょっと分かりにくいかもしれないが、これは、「日本国の施政の下にある領域」で日本が攻撃された場合、日本とアメリカは共同してこれを撃退するということである。

攻撃されなくても対処が可能

しかしこれだと、日本は攻撃されてはじめて日米は共同でこれを撃退することができる。アメリカだけが攻撃された場合や、いまは攻撃されていないが、将来攻撃が予想される不穏な事態には対処することができないのではないかと不安になる。たしかに、「日米安全保障条約」の段階ではこのような事態には十分に対処できなかったことは事実である。

そのため、1993年前後から、自衛隊の負担増を求めるアメリカの要求に押されるかたちで、日本の周辺領域における日米の役割と行動を細かく規定するガイドラインの設定が何度か行われてきた。

まず、1997年の「日米防衛協力のための指針」では、朝鮮半島での戦争を想定し、日本が直接攻撃されていなくても、自衛隊が米軍の活動を後方で支援する内容が盛り込まれた。

そして2001年に制定された「周辺事態法」では、さらに米軍の「後方支援」から一歩進んで、日本が直接攻撃されていなくても、そのまま放置すれば日本に脅威をもたらす事態には、自衛隊は軍事行動をとることが可能となった。日本の周辺領域で米軍が攻撃された場合はこれに該当する。

また、2005年の「日米同盟:未来のための再編」では、周辺領域の情勢が緊張し、日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合を想定し、日米の役割と任務を細かく規定している。

>>次ページ それでもやっぱり集団的自衛権は必要?

「個別的自衛権」で十分

このように見ると、「日米安全保障条約」以降のガイドラインの変更で、日本が攻撃されていなくても、日本の周辺領域の状況が緊張し、将来日本への攻撃が想定されるときは、日本は米軍とともに軍事行動をとることが可能となった。周辺領域で米軍が攻撃された場合はこれに相当する。ということでは、現行の「個別的自衛権」の範囲内で日本の安全保障は十分に対処が可能であることが分かる。

この意味で、自衛隊を米軍の後方支援部隊として組み込み、日本の周辺領域を越えて世界各地に展開させる「集団的自衛権」は、日本の安全保障にとって、まったく必要ではないことが分かる。政府の「『集団的自衛権』は日本の安全保障にとって不可欠」という論理は完全に的外れなのである。

なぜ「集団的自衛権」なのか?

では、なぜあえて安倍政権はいまの時期に「集団的自衛権」を主張しているのだろうか? その理由はいたって単純である。アメリカからの強い要請である。

周知のように、今年の4月27日、「日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会」がニューヨークで開催され、18年ぶりとなる日米ガイドラインの改定が正式決定された。このガイドラインでは、世界中で米軍と自衛隊の共同作業が可能となるよう連携のレベルを引き上げ、米軍への支援を日本の「周辺」に限定せず、世界規模に拡大するとしている。

このように、「集団的自衛権」は、日本の安全保障の必要性というよりも、アメリカからの強い要請であることが分かる。

ところでアメリカは、1992年に後に国防副長官や世界銀行総裁を歴任することになるポール・ウォルフォウィッツの「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」を冷戦以後の国防の基本方針として採用した。現在のオバマ政権の外交もこの方針に基づいているとされている。これは次のようなものだ。

「アメリカの第1目標は、旧ソ連地域であれ、他の地域であれ、かつてソ連が危機もたらしたようなスケールの脅威をもたらすような新たなライバルの再出現を防ぐことだ。これは新たな地域防衛戦略の基礎にある最も重要な考慮事項である。アメリカは、グローバルパワーを生み出すような資源を持つ地域をいかなる敵対的勢力も支配することがないよう努力する必要がある」

つまり、アメリカの覇権を脅かすいかなる勢力の出現も防止するために、米軍を世界的に展開するとした方針である。アメリカの外交政策は、1992年に以来、これに基づいている。近年のロシアに対する過剰な敵対関係も、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」の適用によって、影響力を拡大しつつあるロシアが、アメリカに挑戦できないように叩くことが目的であると考えられている。

すると、結局「集団的自衛権」の本当の目的とは、アメリカの覇権維持のために自衛隊を米軍に組み込み、世界的に展開させるということにある。日本の安全保障とはなんの関係もない。いや、むしろ自衛隊は、覇権維持のため世界各地で戦争を引き起こす米軍の一部となるため、日本の安全保障が脅かされる危険性が高くなるはずだ。

では中国の脅威は?

他方、このように聞いても、やはり中国の脅威に対処するためには、どうしても「集団的自衛権」は必要ではないかという意見も多いに違いない。いま中国は東シナ海の中国側の海域では天然ガス田の開発を強行しているし、南シナ海ではスプラトリー諸島などに軍事施設を建設している。

特に南シナ海は、日本の排他的経済水域の範囲のはるか外側にある。この領域で米軍が中国の人民解放軍に攻撃されると、緊張は東シナ海にすぐに波及し、日本の存立を脅かすことにもなりかねない。だとするなら、南シナ海には自衛隊も米軍ととともに出動し、人民解放軍の攻撃を撃退できるような状況にしたほうがよいはずだ。そのためには、やはり「集団的自衛権」はどうしても必要だ。このような論理が成り立つようにも思える。

>>次ページ 中国とアメリカ、軍事衝突の可能性は?

人民解放軍と米軍の衝突はあり得ない

だが、中国の人民解放軍と米軍が衝突するなどということはあり得るのだろうか? もちろん、事故のような意図しない偶発的な衝突はあるかもしれない。そうした事態が起こった場合、どちらの側も戦争を望んでいなければ、短期間のうちに処理され、大きな紛争に至ることはないはずだ。

そうではなく、中国かアメリカが戦争になることをあえて意図して攻撃することはあり得るのだろうか? もしそうした状況が現実的に想定されるのなら、「集団的自衛権」にも一定の合理性があることになる。

中国を脅威と見る一般的なイメージとは大きく異なるが、どう見ても人民解放軍と米軍が南シナ海や東シナ顔で衝突するとは到底考えることはできない。それというのも、中国の目的はむしろ衝突を極力回避することにあるからだ。

今年の6月、中国は初めて「国防白書」を出した。これを見ると、中国の目的がなんであるのかはっきりと見えてくる。

「中国国防白書」の中身

日本では中国に対する過剰な脅威論が高まっている。「中国はアメリカに変わる世界覇権を目指している」、「中国の拡大を放置しておくと、東アジア全域が中華圏に吸収され、日本は排除されかねない」、はたまた「中国は日本を侵略する野望は捨てていない」などというものだ。

たしかに、南シナ海や東シナ海における中国の他国の利害を考えないなりふり構わない進出ぶりを見ると、中国に脅威を抱くのはよく理解できる。

しかし、日本国内の「中国脅威論」は現実を反映しているかといえばそうではない。6月に「中国国防白書」が発表され、専門家による分析が相次いだ。それらの分析によると、中国の具体的な意図は明らかだとしている。

中国が生き延びるための防御的な拡大

そうした分析によると、中国が軍事力を増強し、海外進出を続けているのは、世界覇権の野望であるとか他の国々を侵略するというような攻撃的な意図があるからではないとしている。

中国の軍事的な拡大の背景にあるのは、中国の生存を確実に確保するために、

  1. エネルギーの輸入ルートの確保
  2. 貿易ルートの安定的な確保

の2つであるとしている。これらのルートの安定的な確保ができなくなると、中国経済の生存は脅かされる。そして、結果的には、経済停滞から共産党に対する支持は失われ、共産党の一党独裁体制は崩壊する可能性が高くなるとしている。政府と共産党にとってはこれは恐怖のシナリオだ。これを回避するために、先の2つの条件の確保は絶対に必要なことだとしている。

一方、中国経済はこれまで年率7%から10%で拡大してきており、それに伴ってエネルギーの需要と貿易の規模も急速に拡大している。2000年と比べ、中国のエネルギー輸入は60%も増大した。

中国の軍事力、特に海軍の拡大の目的はこの2つの条件を確実に確保することだという。中国経済の拡大が東アジアや東南アジアのみならず、中東やアフリカ地域にまで及ぶにしたがい、エネルギーならびに貿易ルートの軍事的な保護を必要となる地域も拡大する。これに伴い中国は、遠洋航海ができる巨大な艦隊の構築に乗り出さざるを得なくなっているとしている。

>>次ページ アメリカと中国、本当の関係性は?

60カ国と軍事協力

だが「中国国防白書」の分析によると、エネルギーと貿易ルートの保護といっても、これを軍事力で制圧することは最後の手段だという。

軍事力の威嚇を背景にしながらも、中国はすでに60カ国と軍事演習や軍事訓練、また武器の調達を通した協力関係を築いており、基本的には多くの国々と協力しながらエネルギーと貿易ルートの安定的な確保をする計画だとしている。

もちろん、これで中国の脅威がなくなったというわけではない。南シナ海のように、他国の利害を無視した強力な自己主張もあり得るので、これがなんらかの軍事衝突の危険性に結び付くことも十分に考えられる。

だが、多くの分析者は、軍事衝突で他国との敵対関係は増してしまうので、エネルギーと貿易ルートの安定的な確保にとっては逆に大きなマイナスになると見ている。軍事衝突を引き起こす意図は中国にはないと考えたほうが合理的だ。

その意味では、「アメリカに代わる世界覇権の野望」だとか「侵略による領土拡大の野望」というような危険な野望が中国にあるとは到底考えられない

中国の意図を十分に理解しているアメリカ

中国のこうした意図を十分に理解しているのがアメリカだ。アメリカは南シナ海における中国の軍事施設の建設を強く非難し牽制する一方、米中両国の軍事協力を強化している。

2008年から、アメリカが主導するインド洋での対海賊作戦に中国を参加させている。

また2014年には、米太平洋軍が主催する世界最大規模の国際海上訓練、環太平洋合同軍事演習(リムパック)に中国を初参加させた。アメリカは、これらの作戦や軍事演習の参加を通して中国に、米軍の戦術や戦略を深く学ぶ機会を提供している。

さらに、今年2月には、中国海軍の将校29人が米国に渡り、海軍兵学校や海軍士官学校、水上戦士学校を訪問し、両国の軍事協力を深めている。

このように、一方で中国を強く牽制しながらも、他方では米軍の戦略や戦術、そして技術を惜しみ無く与えるというのは一見するとまったく矛盾しているように見える。

しかしながらアメリカは、エネルギーと貿易ルートの確保という中国の経済的な生存にかかわる国益を十分に理解していると見ることができる。アメリカは、中国の逸脱した行動は強く牽制しながらも、中国の国益を軍事衝突を引き起こさずに平和理に追求するやり方を、実地で教えているのだ。

>>次ページ なぜ安倍政権は集団的自衛権にこだわるのか?

中国脅威論による「集団的自衛権」は成り立たない

もしこれが実際の状況だとしたのなら、人民解放軍と米軍が軍事衝突することは考えられないことになる。もちろん事故による衝突はあり得るが、両国が本格的に戦争をする意思がない以上、大きな事態に至らないように解決されてしまうことだろう。

ところで、「集団的自衛権」の必要性の根拠のひとつになっているのは、中国の軍事的進出がもたらす脅威である。中国と米軍が衝突する危険性は日増しに増加しているという認識だ。この危険性に早期に対処するためには、「集団的自衛権」を根拠に自衛隊を米軍と一体化させ、南シナ海にも展開できるようにするべきだという理屈だ。

しかし、「中国国防白書」とアメリカの中国に対する対応の方法などを見ると、日本にとって中国が差し迫った軍事的脅威に将来なるとは到底考えることはできない。

ということは、「中国脅威論」によって「集団的自衛権」を正当化することはできないことは明白だ。万が一、東シナ海が緊張した場合は「個別的自衛権」で十分に対処できるはずだ。

安倍政権が「集団的自衛権」を急ぐ本当の理由

このように、日本の安全保障にとっては「集団的自衛権」は必要がない。「集団的自衛権」は、自衛隊を米軍と一体化させ、アメリカの世界覇権の維持のために海外展開させたいというアメリカの要請にしたがったものである。おそらく日本の安全保障とは関係がない。

ならば安倍政権は、なぜ憲法違反まで犯して、それもあまりに短い期間で「集団的自衛権」を成立させようとしているのだろうか?

これには非常に深い裏がありそうだ。これは次回に書く。

image by: 首相官邸

 

『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』より一部抜粋

著者/ヤス
早稲田大学卒。企業の語学研修、IT関連研修、企業関連セミナー、コンサルティング等を担当。世界の未来を、政治経済のみならず予言やスピリチュアル系など利用可能なあらゆる枠組みを使い見通しを立てる。ブログ『ヤスの備忘録』で紹介しきれない重要な情報や分析をメルマガで配信。
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