集団的自衛権は日本の安全保障に必要なのか?

 

60カ国と軍事協力

だが「中国国防白書」の分析によると、エネルギーと貿易ルートの保護といっても、これを軍事力で制圧することは最後の手段だという。

軍事力の威嚇を背景にしながらも、中国はすでに60カ国と軍事演習や軍事訓練、また武器の調達を通した協力関係を築いており、基本的には多くの国々と協力しながらエネルギーと貿易ルートの安定的な確保をする計画だとしている。

もちろん、これで中国の脅威がなくなったというわけではない。南シナ海のように、他国の利害を無視した強力な自己主張もあり得るので、これがなんらかの軍事衝突の危険性に結び付くことも十分に考えられる。

だが、多くの分析者は、軍事衝突で他国との敵対関係は増してしまうので、エネルギーと貿易ルートの安定的な確保にとっては逆に大きなマイナスになると見ている。軍事衝突を引き起こす意図は中国にはないと考えたほうが合理的だ。

その意味では、「アメリカに代わる世界覇権の野望」だとか「侵略による領土拡大の野望」というような危険な野望が中国にあるとは到底考えられない

中国の意図を十分に理解しているアメリカ

中国のこうした意図を十分に理解しているのがアメリカだ。アメリカは南シナ海における中国の軍事施設の建設を強く非難し牽制する一方、米中両国の軍事協力を強化している。

2008年から、アメリカが主導するインド洋での対海賊作戦に中国を参加させている。

また2014年には、米太平洋軍が主催する世界最大規模の国際海上訓練、環太平洋合同軍事演習(リムパック)に中国を初参加させた。アメリカは、これらの作戦や軍事演習の参加を通して中国に、米軍の戦術や戦略を深く学ぶ機会を提供している。

さらに、今年2月には、中国海軍の将校29人が米国に渡り、海軍兵学校や海軍士官学校、水上戦士学校を訪問し、両国の軍事協力を深めている。

このように、一方で中国を強く牽制しながらも、他方では米軍の戦略や戦術、そして技術を惜しみ無く与えるというのは一見するとまったく矛盾しているように見える。

しかしながらアメリカは、エネルギーと貿易ルートの確保という中国の経済的な生存にかかわる国益を十分に理解していると見ることができる。アメリカは、中国の逸脱した行動は強く牽制しながらも、中国の国益を軍事衝突を引き起こさずに平和理に追求するやり方を、実地で教えているのだ。

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