集団的自衛権は日本の安全保障に必要なのか?

 

「個別的自衛権」で十分

このように見ると、「日米安全保障条約」以降のガイドラインの変更で、日本が攻撃されていなくても、日本の周辺領域の状況が緊張し、将来日本への攻撃が想定されるときは、日本は米軍とともに軍事行動をとることが可能となった。周辺領域で米軍が攻撃された場合はこれに相当する。ということでは、現行の「個別的自衛権」の範囲内で日本の安全保障は十分に対処が可能であることが分かる。

この意味で、自衛隊を米軍の後方支援部隊として組み込み、日本の周辺領域を越えて世界各地に展開させる「集団的自衛権」は、日本の安全保障にとって、まったく必要ではないことが分かる。政府の「『集団的自衛権』は日本の安全保障にとって不可欠」という論理は完全に的外れなのである。

なぜ「集団的自衛権」なのか?

では、なぜあえて安倍政権はいまの時期に「集団的自衛権」を主張しているのだろうか? その理由はいたって単純である。アメリカからの強い要請である。

周知のように、今年の4月27日、「日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会」がニューヨークで開催され、18年ぶりとなる日米ガイドラインの改定が正式決定された。このガイドラインでは、世界中で米軍と自衛隊の共同作業が可能となるよう連携のレベルを引き上げ、米軍への支援を日本の「周辺」に限定せず、世界規模に拡大するとしている。

このように、「集団的自衛権」は、日本の安全保障の必要性というよりも、アメリカからの強い要請であることが分かる。

ところでアメリカは、1992年に後に国防副長官や世界銀行総裁を歴任することになるポール・ウォルフォウィッツの「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」を冷戦以後の国防の基本方針として採用した。現在のオバマ政権の外交もこの方針に基づいているとされている。これは次のようなものだ。

「アメリカの第1目標は、旧ソ連地域であれ、他の地域であれ、かつてソ連が危機もたらしたようなスケールの脅威をもたらすような新たなライバルの再出現を防ぐことだ。これは新たな地域防衛戦略の基礎にある最も重要な考慮事項である。アメリカは、グローバルパワーを生み出すような資源を持つ地域をいかなる敵対的勢力も支配することがないよう努力する必要がある」

つまり、アメリカの覇権を脅かすいかなる勢力の出現も防止するために、米軍を世界的に展開するとした方針である。アメリカの外交政策は、1992年に以来、これに基づいている。近年のロシアに対する過剰な敵対関係も、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」の適用によって、影響力を拡大しつつあるロシアが、アメリカに挑戦できないように叩くことが目的であると考えられている。

すると、結局「集団的自衛権」の本当の目的とは、アメリカの覇権維持のために自衛隊を米軍に組み込み、世界的に展開させるということにある。日本の安全保障とはなんの関係もない。いや、むしろ自衛隊は、覇権維持のため世界各地で戦争を引き起こす米軍の一部となるため、日本の安全保障が脅かされる危険性が高くなるはずだ。

では中国の脅威は?

他方、このように聞いても、やはり中国の脅威に対処するためには、どうしても「集団的自衛権」は必要ではないかという意見も多いに違いない。いま中国は東シナ海の中国側の海域では天然ガス田の開発を強行しているし、南シナ海ではスプラトリー諸島などに軍事施設を建設している。

特に南シナ海は、日本の排他的経済水域の範囲のはるか外側にある。この領域で米軍が中国の人民解放軍に攻撃されると、緊張は東シナ海にすぐに波及し、日本の存立を脅かすことにもなりかねない。だとするなら、南シナ海には自衛隊も米軍ととともに出動し、人民解放軍の攻撃を撃退できるような状況にしたほうがよいはずだ。そのためには、やはり「集団的自衛権」はどうしても必要だ。このような論理が成り立つようにも思える。

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