集団的自衛権は日本の安全保障に必要なのか?

 

人民解放軍と米軍の衝突はあり得ない

だが、中国の人民解放軍と米軍が衝突するなどということはあり得るのだろうか? もちろん、事故のような意図しない偶発的な衝突はあるかもしれない。そうした事態が起こった場合、どちらの側も戦争を望んでいなければ、短期間のうちに処理され、大きな紛争に至ることはないはずだ。

そうではなく、中国かアメリカが戦争になることをあえて意図して攻撃することはあり得るのだろうか? もしそうした状況が現実的に想定されるのなら、「集団的自衛権」にも一定の合理性があることになる。

中国を脅威と見る一般的なイメージとは大きく異なるが、どう見ても人民解放軍と米軍が南シナ海や東シナ顔で衝突するとは到底考えることはできない。それというのも、中国の目的はむしろ衝突を極力回避することにあるからだ。

今年の6月、中国は初めて「国防白書」を出した。これを見ると、中国の目的がなんであるのかはっきりと見えてくる。

「中国国防白書」の中身

日本では中国に対する過剰な脅威論が高まっている。「中国はアメリカに変わる世界覇権を目指している」、「中国の拡大を放置しておくと、東アジア全域が中華圏に吸収され、日本は排除されかねない」、はたまた「中国は日本を侵略する野望は捨てていない」などというものだ。

たしかに、南シナ海や東シナ海における中国の他国の利害を考えないなりふり構わない進出ぶりを見ると、中国に脅威を抱くのはよく理解できる。

しかし、日本国内の「中国脅威論」は現実を反映しているかといえばそうではない。6月に「中国国防白書」が発表され、専門家による分析が相次いだ。それらの分析によると、中国の具体的な意図は明らかだとしている。

中国が生き延びるための防御的な拡大

そうした分析によると、中国が軍事力を増強し、海外進出を続けているのは、世界覇権の野望であるとか他の国々を侵略するというような攻撃的な意図があるからではないとしている。

中国の軍事的な拡大の背景にあるのは、中国の生存を確実に確保するために、

  1. エネルギーの輸入ルートの確保
  2. 貿易ルートの安定的な確保

の2つであるとしている。これらのルートの安定的な確保ができなくなると、中国経済の生存は脅かされる。そして、結果的には、経済停滞から共産党に対する支持は失われ、共産党の一党独裁体制は崩壊する可能性が高くなるとしている。政府と共産党にとってはこれは恐怖のシナリオだ。これを回避するために、先の2つの条件の確保は絶対に必要なことだとしている。

一方、中国経済はこれまで年率7%から10%で拡大してきており、それに伴ってエネルギーの需要と貿易の規模も急速に拡大している。2000年と比べ、中国のエネルギー輸入は60%も増大した。

中国の軍事力、特に海軍の拡大の目的はこの2つの条件を確実に確保することだという。中国経済の拡大が東アジアや東南アジアのみならず、中東やアフリカ地域にまで及ぶにしたがい、エネルギーならびに貿易ルートの軍事的な保護を必要となる地域も拡大する。これに伴い中国は、遠洋航海ができる巨大な艦隊の構築に乗り出さざるを得なくなっているとしている。

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