あの週刊文春も語りだした、金正恩「暗殺作戦」の現実味

 

北のミサイルが降ってきたら?

米国の暴力的手段の決行を支持した結果、何が起きるか。上述(4)で山口が引用する「政府関係者」は、いけしゃあしゃあと、「軍事上は、先制攻撃後の朝鮮半島の混乱状態に米韓と連携して対応することが求められます。北朝鮮による断末魔のミサイル攻撃もありえます。仮にVXを搭載したミサイルが東京などに着弾した場合、数万人規模の死者がでる可能性もある」と語っているが、これこそが日本政府として絶対的に回避しなければならない最悪事態ではないのか。

「混乱状態に米韓と連携して対応」と言うが、実はこの対日ミサイル攻撃を防ぐのは思いの外、難しい。昔のように、固定式発射台で何時間もかけて液体燃料を注入して準備して、乾坤一擲、その1発だけが発射されるというのとは違って、今や北のほとんどのミサイルは移動式車両や潜水艦から発射されるようになっていて、しかも予め固体燃料を装着していて、即時かつ同時に何発でも発射出来るので、事前に察知することは極めて困難である。

しかも日本のミサイル防衛システムは同時多発攻撃にはほとんど無能で、日本海に浮かべたイージス艦のSM3にせよ、それをくぐって地表に迫ってきた敵ミサイルを撃つPAC3にせよ、正面から飛んでくる1発か2発を迎撃するのであればまだしも、即時かつ同時に複数の目標に向かって撃たれた場合にそれらを斜めや横から撃ち落とすことは不可能で、それはより高高度の迎撃を受け持つTHAADを配備したところで同じことであって、1基1,000億円のTHAADをどれだけ並べれば安全が確保できるのかは、実は誰にも分からない。

そこで、ええい、面倒だとばかり、いっそのこと「敵基地攻撃能力」を備えて日本が独自に北朝鮮に先制攻撃を加えようという単純稚拙な議論に走っているのが自民党である。2月に同党内に発足した「敵基地攻撃能力の検討チーム」は今月中にも、その能力を備えるべしとの提言を予定しているが、専門家はそれに否定的である。

3月6日の参議院予算委員会の公聴会に公述人として出席した山口昇=国際大学副学長/元陸将は、それについて問われて、「そのことがよく議論になるが、法律的にどうかということはさておいても、技術的に簡単なことではない。どこを攻撃するかの情報がなければならないし、破壊した後に結果を確認する手段も持たなければならない。一国でそれが出来るのは米国くらいだろう。監視、警戒、効果確認の膨大なシステムを作ることになる」と、冷ややかにたしなめた

従って、まずは米国を説得して暴力的な斬首作戦の発動など絶対に止めさせなければならないが、どうも安倍首相は違う方向に暴走しそうな気配である。

 

 

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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