ゴーン氏は日産にとっての黒船だった
世界がどんどん小さくなり、グローバル化が進む中で、過去の日本型経営の方程式に固執し、体質改善を断行できなかった企業の多くが、世界から取り残されてゆきました。
80年代までは、世界を席巻していた家電業界までもが、今では経営のジレンマの中でもがいています。
自動車業界も例外ではありませんでした。
90年代に、経営危機に陥ったマツダは、フォードと提携して再生をはかりました。
その結果、96年にはフォードからヘンリー・ウォーレス氏 Henry Wallace が社長として送り込まれ、それからしばらくフォードから送り込まれた経営陣の元で、会社の再生が手がけられました。
次に嵐に見舞われたのが、日産でした。
日産はフランスのルノーと資本提携を進め、会社の再建を目指します。送り込まれてきたのが、カルロス・ゴーンだったのです。
こうしたことがおきると、日本人はいつも黒船を、そしてダグラス・マッカーサーを思い出します。
ペリー提督の率いる黒船や、日本を占領したアメリカに率いられたGHQがリードした、社会の大変動を思い出すのです。
しかし、こうした見方自体に大きな視点の転換が必要だということに気づいている人はどれだけいるでしょうか。
例えば、フォードの歴代の経営陣には世界各国の出身者がいました。
他の国際企業でも、そうした事例は別に珍しくはありません。
資本提携ですら同様です。
企業は国家を離れ、世界の消費者と向き合う時代に活動しているのです。
そこに、ルーツとしての企業文化を持つことは大切かもしれません。
しかし、遺伝子は常に進化してゆくという現実を考えなければ、企業は世界の消費動向の変化の波に対応できないのです。
しかもグローバルに進化した企業が活躍する国でなければ、税収も所得も、さらには生活の水準も向上しないのです。
「日本企業は日本人の手で」という考えは世界では非常識
ヘンリー・ウォーレスは、アメリカの企業フォードにあって、出身はスコットランドでした。
また、カルロス・ゴーンに至っては、フランスのルノーの経営陣ではありませんが、レバノン系ブラジル人です。フランスからみても外国人なのです。
そうした事例は、世界レベルでみるならば星の数ほどあるのだといっても過言ではないのです。
「日本企業は日本人の手で」という常識を信じているのは、資本主義国の中では日本ぐらいのものだといっても過言ではありません。
世界企業は、必要なときに、他の企業と資本も提携し、技術も提携し、しかもどちらがマッカーサーでどちらが被支配者でという意識もなく、対等にメリットを共有して成長するのです。
日本人の「黒船シンドローム」の一番の課題は、黒船やマッカーサーがやってこないと国が変わらないのではなく、未だに日本対外国という視点でしか物事をみることができない国民意識と企業文化にあるといっても、過言ではないはずです。
カルロス・ゴーンは今回社長を退任し、日産は再び日本人の経営者が舵をとることになります。
その判断が今後どのような変化につながるのかは、特にコメントするべきではないでしょう。
しかし、日本人が「日本対海外」という意識を抱いている以上、これからも日本企業は海外から本当に必要なリソースを得ることなく衰微し、その結果、新たな黒船やマッカーサーによって大きく舵を切られてゆくことになるのかもしれません。
今回の日産での経営の交代をどのような視点でみてゆくか。
ぜひ、企業と消費者、そして国家の利益と企業のあり方という視点を、世界規模にもちながら、考えていって欲しいのです。
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