北朝鮮危機は回避されていた。犬猿の米中が分かり合えた複雑な事情

 

軍事的な解決はありえない

第1は、北朝鮮の核・ミサイル問題に軍事的な解決はありえないことをどうトランプに理解させるかである。

これまでに米国の歴代政権は、

  1. 北朝鮮のすべての核関連施設のみならず軍事基地や政治中枢など700カ所を一斉空爆して、ほぼ全土を焦土と化す作戦
  2. 重要な政治・軍事拠点数十カ所の重点爆撃作戦
  3. 最高指導者の居場所を特定してピンポイント爆撃して爆殺する作戦
  4. 最も練度の高い特殊部隊である米海軍シールズを突入させて最高指導者の首を掻く、ビンラーディンの場合には成功した暗殺作戦、

──など、いろいろな軍事オプションを立案し、その内のいくつかを年々改定しつつ維持していると言われている。が、アフガニスタンやイラクやリビアやシリアと北朝鮮とが致命的に違うのは、北朝鮮は米本土を狙う核ミサイルの保有を目指していて数年中にもその目的を達成するかもしれないこと、それが未完成であっても目の前に在韓米軍、在日米軍という恰好の攻撃目標を人質として持っていて、上記1~4のどれで攻撃された場合でも、全ての反撃能力が破壊されることはあり得ないので、残る総力を振り絞って韓国と日本の米軍基地に対して反撃するのは自明であるということである。

かつて1993年に北が核不拡散条約(NPT)を脱退して核武装を公言した際には、米クリントン政権が核施設空爆を決意しかかったが、「3カ月で死傷者が米軍5万人、韓国軍50万人、韓国民間人の死者100万人以上」という試算が出て、断念した。これには北朝鮮の軍民犠牲者も日本のそれも含まれていないので、ひとたび戦争となれば300万や500万の人の命が簡単に失われるであろうことは確実である。

カーティス・スカパロッティ元在韓米軍司令官は、昨年の米議会証言で、北に対して開戦した場合「朝鮮戦争や第2次世界大戦に近いものになる。非常に複雑で、相当数の死者が出る」と述べた。──その通りだが、その犠牲は何のために?

この数百万人は、何のために死ぬのか何の意味もない各国指導者の意地の張り合いのためでしかありえず、全く馬鹿げている。こんなことは現実的な選択肢とはなり得ないというのが、世界常識である。

習がそのようにトランプを口説いたかどうかは分からない。が、たぶんトランプは「北をやっつける」というのがそれほど単純な課題ではないと知ったかもしれない。

トランプは、例えば健保改革について「オバマケアがこれほど複雑なこととは知らなかった」とまこと率直に述べたように、内外のすべての事柄について、自分が思っていたほど世の中は単純ではなくて相当に複雑なのだということを、日々学習しつつある。北朝鮮問題もその1つだったということである。

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