軍事アナリストが分析、政府の「在韓邦人避難」が非現実的すぎる

 

私が米国側から説明を受けたNEOは最大規模のもので、在韓米人12万5000人を空路グアムに脱出させるというものでした。

なぜ空路なのかといえば、この状況では朝鮮半島周辺で海上封鎖が行われており、艦船での避難には海上封鎖部隊との調整が必要となるからです。

まず、日本の政府は朝鮮半島有事に海上封鎖が実施される可能性についても知らなかったことになります。

また、このNEOの計画では少なくとも1ヵ月前から退避活動が始まり、準備が整い次第、10日間で12万5000人を脱出させることになっていましたが、その1ヵ月前の時点で「1日あたり少なくとも9000人を脱出させることができる数の3000メートル級の滑走路を確保する」とされていました。

もう少し規模の小さなNEOについては、福岡、長崎など日本の空港への航空機による避難の訓練も行われてきました。

むろん、飛行場を確保する段階ではチャーター機は手配済みです。

陸上の輸送についても車両のチャーターの手配は事前に行われ、それを米軍が警護することになっていました。

これを見れば、日本が浮き足だった段階では航空機も車両も、場合によっては日本の船舶さえも押さえられていて手に入らないことは明らかでしょう。

NEOは災害時にも実施されるもので、色々な計画があると思いますが、それを日本政府が研究していたら、少なくとも米国側と協議して、日本側としても飛行場や航空機車両の確保を共同で行う計画を立案できていなければなりません。

あるいは、日本独自にNEOの計画を作成するとすれば、韓国との関係の微妙さから米国と共同のNEOを実施できない可能性を考慮して、米国がNEOを発動する少なくとも1ヵ月前には、前もって押さえておいた車両航空機と船舶で在韓邦人を避難させるくらいの取り組みを考えなければなりません。

これを見れば、読売新聞の記事にある「韓国の民間空港が閉鎖された場合、在韓米軍が南部まで日米の民間人を陸路で輸送し、海上自衛隊の輸送艦などで釜山から福岡などの西日本まで運ぶことが柱だ」という政府の構想が、米国側とのすりあわせを伴わない「空想の産物」ではないかと、疑わざるを得ないのです。

だいいち、「在韓米軍が南部まで日米の民間人を陸路で輸送」とありますが、有事態勢に入っている在韓米軍にはそんな余力はありません。だから米国のNEOの計画には、移送には民間の業者を使うと記されているのです。米軍が担当するのは警備だけです。それなのに、日本の民間人の避難まで手が回ると思うほうがおかしいのです。

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