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日本の企業が見落としがちな、従業員に対する「マーケティング」

ひとくちに「マーケティング」といっても、100の企業があれば100通りのやり方があります。とは言え、「指標となる考え方」があれば知っておきたいもの。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、著者の浅井良一さんが日本の超優良企業2社を例にとり、「何を意識してマーケティングを行えば良いのか」を分析・考察しています。

「マーケティング」について

マーケティング」においては、大きく分けて2つのサイトがあります。一つは事業活動の目的である「顧客」で、もう一つはその顧客の満足を実現させる主たる担い手である「従業員」です。さらに言うと「顧客満足」という「成果」を、より生産的に創造的に実現させようとするのが「マネジメント」の考え方であり活動です。ただし「マネジメント」を実行するにあたり、顧客個々の「欲求・現実・価値」がそれぞれ異なるため、それは一様ではありません。

今回は「マーケティング」のあり様を理解するために、起点である起業家の「欲求・現実・価値」を探りながら、「顧客」と「従業員」という2つのサイトの「欲求・現実・価値」にどのようにアプローチするのかを観照して探って行きたいと思います。

これを探るにあたって、異なるアウトプット(成果)の超優良企業である2社を取り上げ、そのあり様の本質と多様さを確かめたいと思います。この2社とは「トヨタ自動車」と、あまりよく知られていないが一部の人たちの話題にのぼるBtoB企業「キーエンス」です。

トヨタ自動車のケース

トヨタは最高の「売上高」と「利益」を計上しています。創業者は豊田喜一郎氏で、「日本経済の柱となる産業を興したい」とはじめた企業であり、ターゲットとする「顧客は不特定大多数です。そこでとられる戦略は「全面戦争」戦略で、勝ち抜くために一切のムダを排し且つ不可能を可能にしようとするもので、人材すべての才能・能力をムダにすることなく最高レベルで活かそうとする「総力戦」となります。

顧客に対する「マーケティング」

どんな「欲求・現実・価値」に焦点を絞るかということになりますが、不特定大多数のボリューム・ゾーンをターゲットとする場合、それは「安全、安心、値ごろ、燃費、走行性、使いやすさ、居住性」と総花的となりバランスよく一番にならなければならずすべての要件を無駄なく技術的優位性をもって実現されなければなりません。

従業員に対する「マーケティング」

少し一般的な予備知識として、2つの「欲求学説」について精通してください。

  1. マズローの欲求5段階説:人間は低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を求める
  2. ハーズバークの動機付け衛生理論:不満の原因となる欲求とやる気を引き起こす欲求は相異なる

ただ、少し断っておかなければならないのは、生ものである現実を相手にする場合、基本の考え方のバックボーンを知ることが必要です。人間は複雑なので「熱意」「勇気」「知恵」「根気強さ」「愛情」といった「価値観」や「哲学」といった要素を抜きにして行うことはできないことを知っておくことが基本になります。

トヨタの場合、大規模な活力を引き出す必要があり、多くの人材の参画が必要で、その地域の多くの人たちの採用が必要となります。そのため、愛知県という土地柄を抜きにして人材獲得・活用を行うことは考えられません。

地域を生活基盤にする人たちの欲求は「堅実」「安定」であり、「雇用の保証」「安定した報酬」「コミュニティへの帰属」という気風があり、従業員に対する「マーケティング」つまり「インセンティブ(誘因)」はそれに順応したものとなります。

コミュニティを守ろうとする気風の土地柄において、戦後のトヨタの存亡の危機と社員の一部の解雇という悪夢から強力な共同体意識が生まれました。グローバルな競争のなかで、自身の貢献で「世界一」にならなければ達成できないという「思い」が皮膚感覚になって行きました。

その経営のあり方は、非常識とも思える革新的なアイディアを賞賛し、存続のために「総力戦」を戦う仲間と相携えて考え抜いて実行することを支援することです。

キーエンスのケース

この自動制御機器を中心とした製造販売会社は、最高の収益率と日本一の報酬(一人当たり)を計上しています。創業者の滝崎武光氏が「倒産しない経営」を考え抜いて築き上げた企業で、ニッチ(すき間)な顧客に特化して自社の「強み」要素を究極なまでに構築して他の企業が参入できない状況をつくる「戦わない戦略が取られています。そのマーケティングの特色を一言で言うと「だれも提供していない、あなた仕様で役立つものを、あなたに提供します」となります。

キーエンスの状況は、顧客が一般消費者ではないため見えにくく、ここには憶測が含まれていることを最初にお断りしておきます。

顧客に対する「マーケティング」

メーカーを主なターゲットにして供給される製品・部品は「センサー」「測定器」などで、機能的な専門性が求められるものに特化して「コンサルティング」サービスをも付加しています。そして、顧客の「生産性を高めるために必要な高機能な機器・部品という『欲求』」「モノづくり機能はあるものの充分な知識を持たない『現実』」「機能することを求める『価値感』」を顧客以上に知悉(ちしつ)して供給します。

顧客が求める前から求められている効用を用意できる営業は、競争できない状況を構築できるので、価格設定において優位な「市場」が形成されます。ただ、このシステムはほとんどマニュアル化されているようで、成功事例をもとに横展開しているようです。顧客のニーズの効果的な読み取りも、マニュアルのなかにあるのでしょう。

従業員に対する「マーケティング」

特化した顧客に対して、「マーケティングを実現できる人材の獲得がその焦点になります。主たるインセンティブ(誘因)は、ずばり日本最高レベルの報酬です。一人当たりの報酬額(給与)は、トヨタ自動車の2倍以上の金額です。

求めている人材は2分野で「機能として秀でた人材です。最も「強み」としなければならないのは製品開発で、ここが欠けるとビジネス・モデルの基盤が形成されません。精密機器分野の企業の報酬としては一頭地を抜いているのと、ドライな社風なので、「やることさえできていれば評価される」ことにより安定しているのです。

もう一分野は営業マンで最適機能を発揮する人材が求められます。中途採用はなく、色のついていない新入社員を自社のノウハウで鍛え上げることにより企業仕様に戦力化しています。与えられた高い「ノルマ」を、決められた営業手法を繰り返すことでスキルが磨かれて勝ち抜くことで「機能戦士」になって行きます。ついてこれない者は、とうぜん淘汰されます。

人材を「機能」や「消耗品」として規定するとき「機能戦士」がくり出すべき「の編み出しと磨きをかけることは勝つための要件です。細かく「行動規範」として規定され、上司・先輩の指導の下にロール・プレイング(役割演技)が行われ、より高い「成果」が実現されます。特化した高収益が望める「市場」で勝利するには、「機能」を最高レベルに保つことが有効な戦略になるようです。

「機能」と規定して人材を活用する場合は、「高水準の報酬」と「マニュアル」があることが、体育会系の人材にとって「勝つという欲求が満たされる」ことでもあり有効なインセンティブ(誘因)になります。

ただ、この従業員への「マーケティング」展開が有効なのは「競争が起こらない」「クリエイティビティ(創造性に富む)を求めれることが少ない」「高度な知識が競争の源泉でない」といった要件の「市場」でなければ、その「効果」は発揮しにくいでしょう。

一般的に「金銭的な動機づけ」は「活動を引き起こさせる」起爆剤になりますが、創造性や革新を引き起こす「やる気を引き起こすことはありません。しかし「やる気」を引き起こす価値観にかかわる「動機付け要因」に「金銭的な動機づけ」が補償される時には、より「強化」されたものになるのは確かなようです。

image by: Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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