あなたが住んでいるマンションに、ツバメが巣を作ったとしたら─? 今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では、著者でマンション管理士の廣田信子さんが、実際にとあるマンションで巻き起こった「ツバメの巣騒動」の顛末に見る「管理組合の合意形成」について記しています。
マンションのツバメ巣どうする?
こんにちは! 廣田信子です。
先日、あるマンションの理事長さんからちょっといい話を伺いましたのでご紹介します。
今年、マンションのエレベーターホールにツバメが巣をつくりました。しかも、2階、3階、5階の3つも巣があります。巣があれば、どうしてもその下がツバメのフンで汚れます。
で、「ツバメの巣」は、中に卵やヒナがいるときに壊すと、「鳥獣保護法違反」で罰せられる可能性があります。巣を壊されたら、卵もヒナも生きてはいられませんから…。そうなる前に、巣を撤去するかどうかを総会で話し合いましたが、意見が割れました。フン害と関係ない階の人は、ツバメがかわいそう~と思うでしょうが、巣がある階の人は、フン害と向き合わなければなりませんから、単純にかわいそう~という訳にはいきません。
でも、冷血な人間みたいで、総会では、撤去とは言いにくいと思う人もいるかもしれません。そこで、理事長は、それぞれの階の巣をどうするかをそれぞれの階の人の判断に任せようと提案し、そのようになりました。
そこまで話を聞くと、当事者は、やっぱり早く巣を撤去しようということになるのかな…と想像しそうですが…、実は、結果はまったく逆だったのです。該当する3フロアーの方々は、全員、巣を残すことに賛成したと言うのです。
子供がいる若いファミリーが多いマンションです。その階の方々は、そこを通るたび、フンは気になりながらも、ツバメの巣のことを、親子で会話していたのでしょうね。巣の下には、フン受けの段ボール箱が置かれていて、衛生上問題だ…という人がいてもおかしくない状況です。でも、みなさんは巣を残す選択をしたのです。巣を残した結果、その巣でヒナが育ち飛び立つまで、マンション内の共通の話題になり、ツバメはマンションコミュニティに大きく貢献したようです。
全員一致で巣を守る選択をした巣のある階のみなさんもステキですが、私は、その前に、総会で、自分の階の問題じゃないのに、「卵を産む前に巣を撤去した方がいい」と意見を言われた方がいたことも、とてもステキだと思いました。
どうしてか…ですよね。
自分に害がなくても、被害があるかもしれない当事者のことを思い、言いにくいであろうことを言ってあげたのです。「ツバメの巣」の階の方も、手離しで巣を喜べない自分たちの気持ちをちゃんとわかってもらっていると感じたでしょう。巣を撤去するという判断をしてもいいのだという承認をもらったことが、その階の方々の心をすごく軽くしたと思います。
ちゃんと分かってもらっている、自分たちでどちらの判断をしても受け入れられる、その安心があるから、巣を残すという自らの判断ができたのだと思います。ですから、最後、当事者の方々に委ねようと言った理事長の判断もステキだと思います。
さて、理事長は、判断を委ねた結果、全員が巣を残す判断するだろうということまで、予想されていたのでしょうか…今度、お会いしたら聞いてみたいです。
自分たちの事情や気持ちが理解されていると感じることが、人の心を柔らかくします。心が柔らかくなると人は寛容になれます。マンションでの共同生活には、その時々に、損得感情が生まれやすいのです。「損」と感じるであろう人たちの事情や気持ちをまず、みんなが理解することが合意形成の出発点です。それがあって初めて、自分は「損」をするように思っても、まあ、全体のためになるのなら反対するのはやめるか…という柔らかい気持ちを産むのです。それが、管理組合の合意形成のコツじゃないかな~と思います。
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