東京モーターショーはこのままだとヤバい。プロが感じた「限界」

 

日本の自動車産業の実情をメディアはきちんと伝えているか?

TMSは1973年の第一次石油危機(オイルショック)を契機に隔年開催に改められている。幕張メッセ開催から10年を経た1999年第33回から2004年第38回までは乗用車・二輪車ショーと商用車ショーに分けて毎年開催となったが、2005年第38回から再び隔年開催に戻されている。

1995年の日米自動車協議の妥結を経て、日本の自動車産業は輸出主導から北米を中心に仕向け地での現地生産化が促進され、2005年には1995年比で2倍増の1000万台の大台を突破。それに伴い、かつての日本の5ナンバー枠に縛られた小型車中心から現地の市場に適合したボディや排気量の大型化が進んでいる。

それは日本国内での中心機種と海外市場での主力モデルの乖離がはっきりするタイミングであり、日本人が知らない日本車が数多く存在することが既成事実化し始める時期とも重なった。加えて、ブロードバンドの普及に伴うインターネットの一般化が既存メディアの影響力を削ぐとともに、ライブスペースとしてのモーターショーのあり方にも変化を求める圧力となり始めていた。

昨年2016年の日本メーカーの海外生産台数は1897万9470台。国内生産は920万5000台で合計約2800万台。世界全体の四輪車生産台数は9497万7000台だからほぼ30%が日本車で占められている計算だ。国内販売は約500万台で残りが輸出に回るから、海外販売台数は国内の5倍近い2300万台。内外比率は2対8であり、ほとんどのメーカー/ブランドがグローバル化して国内市場の相対的重要性を下げている。

いかなる国のクルマでも母国市場は重要だ。ホームで培われた技術やセンスが商品としての魅力の源泉でありクルマとしての個性に結びついている。「クルマは道が創る」という名言を遺したのはトヨタのトップガンとして名を馳せた故成瀬弘だが、その愛弟子を以て任ずる豊田章男トヨタ自動車社長はすでに8割が海外市場向けとなっているトヨタの現実を忘れたかのように「もっといいクルマを作ろうよ」というメッセージを送り続けている。

トヨタのクルマ作りは、今や大勢が国外向けであり、全体の2割に留まる日本市場向けの多くは軽自動車と和製ミニバンで占められる市場特性に縛られている。クルマは道が創るという至言に依ればその通りであり、走行環境/インフラの改善なしにクルマのレベルアップを期待するのは難しい。インフラや法定最高速度に代表される法規制を改善しないかぎり国内外のギャップは埋まることなく、海外現地生産車と国内市場専用車が融合することもないだろう。

そもそも現在のままでは、国外に数多く存在する海外市場向けの日本車を日本人が直接目にすることはなく、見えないモノは存在しないというロジックそのままに目先の現実に縛られた夢のないクルマに未来を託すことになる。なにはともあれ、日本メーカーが世界中で作っているクルマをホームに一堂に会して事実を知る必要がある。

TMSが成すべき最大のミッションではないだろうか。

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価値観が大きく変化しようとしている今、なすべきことは何か? このまぐまぐ!のメルマガ『クルマの心(しん)』を始めて多くのことに気づかされました。ずっとフリーランスでやって来て40年、還暦を迎えたこの段階でまだまだ学ぶことが多いですね。どうしたら自動車の明るい未来を築けるのだろうか? 悩みは尽きません。新たなCar Critic:自動車評論家のスタイルを模索しようと思っています。よろしくお付き合い下さい。

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