以前掲載の「ちょっと待て。「就業規則の変更」には、思わぬ困難が待っている」では、「就業規則の不利益変更」がいかに困難を伴うものかということをお伝えしました。今回の無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』では著者で社労士の飯田弘和さんが、「就業規則の不利益変更」に関する実際の判例を2つ紹介しながら、「有効と無効のボーダーライン」を検証しています。
御社の就業規則変更に合理性はありますか?
就業規則の不利益変更を行う場合、その「必要性」と「労働者の受ける不利益の程度」との間に、バランス(合理性)がなければなりません。今回は、具体的な事例をみてみたいと思います。2つの判例を紹介します。2つとも、賃金減額を伴う就業規則の変更事例です。
※賃金規定は、就業規則の一部とみなされます。従って、賃金規定の変更は、就業規則の変更となります。
まず1つ目に紹介する判例は、「第四銀行事件」。
就業規則の変更内容
55歳定年制を60歳に延長するのに伴い、55歳以降の賃金を55歳時の63~67%に引き下げるというもの。この裁判では、行員の90%で組織する労働組合との合意等もあって、就業規則の変更を合理的なものであるとしました。
2つ目に紹介する判例は、「みちのく銀行事件」
就業規則の変更内容
60歳定年制の下で、55歳以降の賃金を33~46%削減するというもの。この事件では、就業規則の不利益変更を「無効」としています。この中で、最高裁が述べていることをいくつか挙げてみます。
- 55歳以降も所定の賃金を得られるという「既得権益」を奪うものである
- 55歳以上の高齢者にのみ負担を負わせるものである
- 全社的に見ると、人件費の総額は増加している経過措置(激変緩和措置)をとっていない
- 所定労働時間の変更があるわけでもなく、同じ職務を担当しており、労働時間の削減を伴う代償措置がない
- もともとの賃金水準が、格別高いというわけではない
- (この事例に関しては、)労働組合との同意を、大きな考慮要素と評価するのは相当でない
以上のようなことから、この「みちのく銀行事件」での就業規則の不利益変更は、労働者の不利益の程度が大きく、しかも、それが55歳以上の者に偏っていたため、「無効」とされました。
この2つの事件は、就業規則の変更内容がかなり似ています。しかし、結果は異なるものとなりました。このあたりが、就業規則の不利益変更が「有効」か「無効」かのボーダーラインとなります。実に難しい!
このような難しいボーダーライン上の不利益変更を行おうとする際は、専門家の意見を聴いて参考にすべきでしょう。特に、賃金・賞与・退職金等、お金にまつわる不利益変更は、従業員とトラブルになることが多い。たとえ従業員との間に同意があったとしても、その同意が「自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要」とされます。そして、トラブルになっている以上、「自由な意思に基づいた同意」であるというには疑問が出ます。
お金にまつわる不利益変更については、従業員との十分な話し合いの場を設け、あまり性急にならずに行っていく必要があります(できるだけ納得してもらえるよう時間をかけて説明していくことや激変緩和措置として数年かけて逓減していくことが必要)。それができないときは、従業員とのトラブル(場合によっては裁判等)を覚悟する必要があります。
以上を踏まえて、あらためてお聞きします。
「御社の就業規則変更に合理性がありますか?」
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