首都圏が阿鼻叫喚、大雪の混乱から見えた「日本人の悪しき習慣」

 

それは「論理や統計などの抽象概念から、リスクを取って判断することができない」ということ、更にもっとシンプルな言い方をするのであれば、「目で見ないと納得できない」とか「実際に起きて実感しないと動けない」という問題です。

今回の大雪の場合ですと、それこそ「雪が積もり始めないと退社の決断ができない」ということです。中には笑えない話として、「鉄道が運休になった路線の沿線の人は帰宅して良い」などという信じられないような命令が出た職場もあったようです。運休になったらもう帰れないわけですが、要するに「実際に起きてみないと」ダメというわけです。

これは深刻な問題で、情報入手のスピード、判断のスピードという以前の問題です。では、どうして「雪の降らないうち」に判断できないのかというと、そこには「先走って判断して外れた場合は非難されるから」というカルチャーの問題もありますが、もっと深層心理の問題として、「見える化しないと動けない」という一種の習性が日本の組織にはあるように思います。

この「目に見えないとダメ」という習性は、この種の気象条件の問題だけでなく、様々なケースで言えるように思います。例えば、今回のような悪天候の場合には、それこそテレワークが機動的に機能するのであれば、わざわざ無理をして都心まで出勤しなくてもいいわけです。

ですが、このテレワークがなかなか上手くいかないというのにも、何かにつけて「顔を合わせてコミュニケーションしないと安心できない」とか「何もかもがデジタル化しているのではなく、紙を見ないとダメか最終的に紙に落とさないとタスクが完結しない」などといった、やはり「目に見えない情報だけでは仕事が完結しないという習性があるように思うのです。

この問題は、恐らく日本経済の生産性を著しく奪っているわけで、考えてみれば、「実際に雪が降り始めないと判断できない」ということや、「テレワークでは信頼感がないので顔を合わせて仕事がしたい」ということからは何も生まれない一方で、膨大な時間と手間を消費することになります。

今回の大雪の問題を、この生産性の問題から考えてみる、そして「目に見えないとダメ」というカルチャーが、いかに生産性の敵であるかを考えてみるというのは、今後の日本経済をどう変革していくかという議論に役立つのではないでしょうか。

 

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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