資金力がなく、幼稚園の経営はしていても小学校は未経験である森友学園。その理事長は、さかんに政治家や安倍昭恵総理夫人の名を持ち出して声高に要求を通そうとしてくる。財務局職員はさぞかし苦労しただろう。
こういう事情のある、いわゆる「マル政案件」を近畿財務局だけで処理できるわけがない。当然、本省の理財局長、さらには事務次官にまで対処方針について相談が持ち込まれるに違いない。
通常、このくらいの規模の国有地案件なら、近畿財務局レベルで済む話だ。本省にまで上がらない。だが、首相周辺から何らかのアプローチがあったら話は別だ。
2015年11月15日に、内閣総理大臣夫人付、谷査恵子氏は、賃料負担の軽減を求める籠池氏に「財務省本省に問い合わせ、国有財産審理室長から回答を得ました」とFAXを送っている。谷氏は前年から昭恵夫人に同行して森友学園を訪れていた。
谷氏の事実上の上司は政務担当総理秘書官、今井尚哉氏である。総理の懐刀と言っていい。小泉首相における飯島首席秘書官と同じく、「官邸のラスプーチン」といえるような影の実力者だ。
昭恵夫人がその前年から森友学園に関心を持っていることを当然、今井氏は承知していたはずで、ひょっとしたら今井氏からの、なにがしかの働きかけを受けた本省の指示で、近畿財務局が小学校新設の話を前に進めようとし、無理を重ねてきたのかもしれない。
森友学園の交渉窓口になっていた近畿財務局の池田靖・国有財産統括官の部下が自殺を遂げた。その原因は不明だが、森友問題との関連が強く疑われる。
3月13日の読売新聞によると、自殺した男性職員は本省の指示で文書を書き換えさせられたという趣旨のメモを残していた。「常識が壊れた」と親族に話していたともいう。
実は、決裁文書の原本というのは正確に言うと、存在しない。差し替えられた文書はペーパーそのものが廃棄されており、復元できない。今回、財務省が出したのはパソコンに保存していた原本のデータをプリントアウトしたものである。
そして、調書の中身を実際に差し替えたのは近畿財務局の職員であり、それを指示したのが本省の理財局だ。
森友案件は、もともと本省マターであり、近畿財務局はその下請けをやってきたに過ぎないのではないだろうか。
籠池氏の人格を見抜けなかったことはともかくとして、安倍首相夫妻が教育勅語を園児に教える森友学園に強い関心を抱いたことや、昭恵夫人が籠池夫妻と親交を深めた一時期があったことは間違いない。
昭恵夫人の行動を夫である安倍首相はもちろん、今井秘書官も十分に認識していただろう。
報道によって疑惑が発覚し、2017年2月17日の衆議院予算委員会で安倍首相が「私や妻が国有地払い下げに関わっていたのであれば総理大臣も国会議員も辞める」と発言したところから、本省の理財局が慌てはじめた。忖度ではなく、おそらく、官邸サイドから対応を迫られたのではないだろうか。