「米中貿易戦争は回避される」国際交渉人がそう判断した根拠

 

しかし、本当にそのようなシナリオになるでしょうか。私は、まず現時点では、心配はないと考えています。まず、事の発端を作り出したトランプ政権側も、ナバロ国家通商会議議長やロス商務長官が「まだ、詳細は精査中で、発表に対して、市場は過剰に反応しないでほしい」と、わざわざ発言し、騒動の火消しに躍起になっています。

また狙い撃ちされた中国側も、政府高官が、私達がメディアでよく見る“深刻な顔で”はなく、笑顔を湛えつつ、中国からの報復の可能性について言及しており、決して本気に捉えている様子はありません。あくまでも「もしもの場合、中国もこういった報復措置を取る」とできるだけ具体的には返答しつつも、実際に恐れたシナリオが実現することは考えづらいと考えているようです。これは、中国政府内でもシェアされている見解のようですし、対象となる各産業セクターの幹部たちも、あまり現時点では真面目に捉えてはいないとのことです(もちろん、ワーストシナリオへの対処については策を練っているようですが)。言い換えれば、「貿易戦争」というよりは、「米中間の貿易小競り合い」というところでしょうか。

その私の印象をより強めたのが、4月10日に習近平国家主席が行ったボーアオアジアフォーラムで行った基調講演の内容です。私なりにまとめると、主な内容は以下の4点かと思います。

  1. 市場参入:銀行、証券、保険の外資持ち株比率制限の緩和、保険市場の開放、自動車業の外資持ち株比率制限の緩和
  2. 投資環境の改善:知的財産権保護の強化、外資企業の国民待遇およびネガティブリスト管理制度の全面的実施
  3. 知的財産権の尊重:「国家知的財産権局」の再建、関連法律の整備
  4. 輸入拡大の継続:自動車の輸入関税の大幅な引き下げ、WTOの「政府調達に関する協定」加入への取り組み強化、11月に上海で開催予定の「中国国際輸入博覧会」の重要性

さらに、これらの政策は口だけで終わらせるのではなく、「これらの政策を早急に実行に移す」とも強調していたのが印象的でした。

そして、聞いていて耳に残ったキーワードは、「開放」「多国間」「平和」で、これらは何度も繰り返され、それらは、かなり米国からの“挑発”を意識し、それに対して中国は国際ルール特にWTOに沿った対応を断固して取る、という点を強調した講演だったように思えます。これに対し、トランプ大統領がどのような反応を示すのかが興味深いと考えています。

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