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金正恩の狙い通り。北の大勝利に終わった南北会談の驚くべき作戦

世界が注目する中、4月27日の南北首脳会談で文在寅大統領と金正恩委員長が署名した「板門店宣言」。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんがこの「板門店宣言」を詳細に読み解き、「会談は金正恩委員長の大勝利だった」と断言、その理由について記しています。

なぜ南北首脳会談は、金正恩の勝利だったのか?

皆さんご存知のように、南北首脳会談が4月27日、行われました。で、その結果、文さん、金さんは、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」に署名したのですね。ここに何が書かれていたのでしょうか?

金正恩は、「経済制裁」を「無力化」する

まず、1950年からつづく「戦争状態を終わらせ、「平和な時代を築く決意が宣言されています。

両首脳は、朝鮮半島にもはや戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを8,000万のわが同胞と全世界に厳粛に宣言した。

「新たな平和な時代が開かれ“た”」というのは、かなり早すぎる気がしますが…。

1 南と北は、南北関係の全面的で画期的な改善と発展を実現することで、途絶えた民族の血脈をつなぎ、共同繁栄と自主統一の未来を早めていくだろう。

「平和な時代」が開かれたということで、「関係改善をしていこう!」という話になります。そして、「具体的にどうやって関係を改善していこうか?という項目がつづきます。

6項目あるのですが、長くなるので、興味がある方は原文をお読みください。ここではポイントだけ、書いておきます。

(1)南北は、すべての合意を徹底的に履行する

(2)南北は、各分野の対話と交渉を早期に開催し、首脳会談の合意を実現すべく対策を立てる

(3)南北の交流を円滑に進めるため、南北共同連絡事務所を開城地域に設置する

(4)南北は、多方面の協力と交流、往来や接触を活性化する

(5)離散家族・親戚再会をはじめとする諸問題を協議、解決する

次がおそらく最重要です。ここ、原文そのまま引用。

(6)南と北は民族経済の均衡的な発展と、共同繁栄を成し遂げるため、(07年の南北首脳による)10月4日宣言で合意した事業を積極的に推進していき、一次的に東海線と京義線の鉄道と道路などを連結し、現代化し、活用するための実践的な対策を取っていくことにした。

さて、「1」と項目(1)~(6)で書かれていることはなんでしょうか? 要するに、「平和な時代が来たので、両国間の人的経済的交流を活性化させましょう」ということ。結果、比較的豊かな韓国から極貧の北朝鮮に金が流れるようになる。

北朝鮮は現在、厳しい経済制裁で苦境に陥っていますが、この宣言内容が現実化すれば「経済制裁が無力化される」ことになります。

で、核問題どうするの?

ここまで「平和な時代が開かれたのだから、交流を活発化させよう!」というでした。ここからは、「軍事的緊張をなくすためにどうする?」という話になります。

2 南と北は、朝鮮半島で先鋭化した軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的に解消するため共同で努力していくだろう。

以下、ポイントを書きます。

(1)南北は、敵対行為を全面的に中止する

(2)南北は、黄海の北方限界線一帯を平和水域とする

(3)南北は、交流を活性化することで、軍事的保証対策を講じる 軍事当局者会談を頻繁に行う

要は、「敵対行為を中止軍事当局者の交流を活性化させることで、平和を築こう」と。

つづく「3」には、とても重要なことが記されています。

3 南と北は、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築のため、積極的に協力していくだろう。

「2」と似ていますが、「3」の方が重要。

(1)南北は不可侵合意を再確認する

(2)南北は、信頼関係が構築されるに伴い、段階的軍縮を実現していく

次、そのまま引用します。

(3)南と北は、休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築するため、南北米3者、または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していくことにした。

とても重要な内容が二つ含まれています。

おそらく「南北米中4者」会談になるのでしょう。「6か国協議」から日本とロシアが外されています。何度も書いているように、日本はそれで気にする必要はありません。むしろ、「フライングして日米関係を悪化させないよう注意すべきです。

次は、世界にとって、最も重要な部分でしょう。

(4)南と北は、完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した。

 

南と北は、北側が講じている主動的な措置が朝鮮半島非核化のために非常に意義があり重大な措置だという認識を共にし、今後それぞれ自らの責任と役割を果たすことにした。

 

南と北は、朝鮮半島非核化に向けた国際社会の支持と協力を得るため、積極的に努力することにした。

「南と北は、完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認」。「核のない北朝鮮ではなく、「核のない朝鮮半島」です。これは、なんでしょうか? 北朝鮮と中国は、「北朝鮮が核を廃棄するかわりに、米軍は韓国から撤退すべきだ!」と主張してくることが予想されます。これが、(北ではなく)「朝鮮半島非核化の意味です。

アメリカ、70年代初めに台湾を切り捨てたキッシンジャーがトランプの最高顧問をしている。だから、韓国を切り捨てて中国にプレゼントすることも「ありえるよね~~」という気がし、恐ろしいです。

そして、最後。

文在寅大統領は今秋、平壌を訪問することにした。

文さん、秋に訪北するそうです。

南北会談は、金正恩の勝利

さて「板門店宣言」には何が書かれていたのでしょうか? ポイントは、「平和な時代が開かれたと宣言されている。それに伴い、南北の人的、経済的交流が活性化し、結果として「経済制裁が無力化される」可能性がでてきた。

一方、世界が注目している「非核化」については「北の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」とすることで、問題を拡大させました。これはなんでしょうか? 金日成金正日と同じ作戦だと思われます。

時は流れ、北朝鮮は、核兵器をもちつづけながら経済的利益も得てしまう。まあ、「板門店宣言」の意味は、こういうことになります。すべて金正恩の狙いどおりに進んでいます。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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