人は無意識に理想のキャラが登場する作品に惹かれる
マンガやアニメも、キャラクタービジネスの一種です。登場人物の人気はそのまま作品全体の魅力に直結します。
特に、マンガなどの場合、読者の「アバター」を意識する必要があります。人はマンガを見るとき、無意識のうちに自分のセルフイメージに近いキャラと同化し、そのキャラをアバターとみなします。
たとえば女の子が「ドラえもん」を読むときには、アバターはしずかちゃんであることが多く、「クレヨンしんちゃん」ならネネちゃんであることが多いのです(ひまわりだと小さすぎる)。
だいたい自分自身と同性で、年齢の近いキャラが無意識のうちにアバターに選ばれます。特にしずかちゃんは、のび太から出木杉に至るまで、男子全員の憧れを独占する「絶対的ヒロイン」です。女子にとって、ひとつの理想像であることは間違いないでしょう。
もしも「ドラえもん」にしずかちゃんが登場しなければ、どんなに話が面白くても女の子はほとんど「ドラえもん」を見ないと思います。実際に、中学生くらいになるとあまり「ドラえもん」を見たいとは思わなくなるはずです。
それは内容が小学生向けであるというだけでなく、アバターとして感情移入できる適当なキャラがいなくなってしまうからなのです。
この原理をよく理解しているのが、高橋留美子です。彼女の作品は、男女問わずファンが多いことで知られています。
その秘訣は、必ず男女カップルをW主役にしているからです。たとえば「犬夜叉」の場合、男子は主に犬夜叉、女子はかごめがアバターです。「うる星やつら」なら、男子は諸星あたる、女子はラムです。
サザエさんは「全員が勝ち組の家族」だった!
当たり障りのない内容の『サザエさん』がなぜか 国民的アニメとして成功しているのは、メインターゲットである子どもの視聴者と、その両親・祖父母世代にそれぞれアバターが存在しているからです。
ワカメちゃんのポジションが絶妙なのは、一応は姉と兄がいる末っ子であると同時に、タラちゃんという事実上の弟がいることです。つまり、視聴者の「末っ子として甘えたい」願望と「お姉ちゃんになりたい」願望の両方を満たすアバターなのです。
やんちゃ坊主のカツオは、男の子の視聴者から共感を得られるアバターです。
サザエさん世代の視聴者にとっては、夫(マスオさん)は早稲田卒のエリートサラリーマンで、実家住まいで(しかも世田谷区内の庭付き一戸建て!)、子育てを両親に手伝ってもらえて、おまけに専業主婦というのは究極の贅沢であり、野望でしょう。
フネさん世代の視聴者にとっても、タラちゃんのように可愛い孫と暮らすことは最高の夢であり、幸せです。
磯野家は一見平凡に見えて、なにげに「全員が勝ち組」なのです!要するに、磯野家の人々がジャパニーズドリームを体現してさえいれば、個々のエピソードはどうでもいいのです。初期設定が重要です。
しっかり分析していくと、『サザエさん』が半世紀に渡って高視聴率を保ってきた理由が良く分かります。「キャラクタービジネスとして」比類なき完成度に達しています。
もちろん、あれが限界というわけではなく、たとえば波平さんの髪がフサフサだったら中高年男性の視聴者はもっと増えるはずです。何より今の時代は専業主婦よりキャリア志向が主流ですのでサザエさんをキャリアウーマンにして育児との両立を描いた方が、絶対に視聴者の共感を得られるはずです。そこが、最近『サザエさん』の視聴率が落ちてきている原因でしょう。
おそらく皆さん、「日本人がなぜかサザエさんを観てしまう理由」をここまで明快に説明できる理論には今までに出会ったことが無いはずです。
マキトの開発したセルフイメージ心理学は無限の応用力を秘めているのです。
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