しかし、要望はこれで収まらなかったのです。いざこの条件で交換をしようとなった時にニューヨークの証券取引所のダウ平均の株価か下落したため82ドルが72ドルになってしまいました。当初82ドル対32ドルで交換することに決まっていたのが72ドル対32ドルで変更してほしい要望がまたもやなされたのです。
そのときに至っては内部の関係者は皆こぞって大反対で「突っぱねるべきだ」となったのでしたが、しかし稲盛さんは相手側の株主に配慮する心情を汲み取り、さらに採算が合うか再度検討した後になんとかなると確信して買収に踏み切りました。
「相手を思いやる」としてなされた決定は、結果としては、異なる企業文化の従業員や株主の好感と信頼を勝ち得ることとなり、その後の業績の回復のためになさえた経営哲学や経営システムの転換が抵抗少なくなく受け入れられて、それが好業績へとつながって行きました。やがて、5年後にはAVX社は証券取引所へ再上場することとなりました。
穿った見方をするなら、たまたまに「京セラ式の経営」が実行されたことで「JAL」と同じように業績が急回復したのだと言えそうですが、それでも、後付けかもしれませんが「利他」と称する行為が「異文化」を同化させるための「コア・コンピタンス(独自の強み)」として作用して、“効用”として機能できたその事実は否定できないものです。
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