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日本のサラリーマン経営者がAmazonやAppleに勝てぬ当然の理由

かつては世界をリードしていたものの、今やすっかり凋落した観のある日本企業。取って代わるように躍進したアップルやアマゾンといった企業との差はますます開くばかりです。なぜこのような事態に陥ってしまったのでしょうか。世界的エンジニアでアメリカ在住の中島聡さんが、自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』の中で、日本企業がアマゾン等に水を開けられ続ける理由を考察しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年9月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

私の目に止まった記事

“GAFA”躍動のアメリカ、“失われた30年”の日本 ― 朝倉祐介が語る今すべき思考の転換

日本の失われた20年が30年になろうとしていることに関して、私と同じように問題意識を持っている朝倉祐介氏の考え方の紹介です。

朝倉氏は、日本企業が短期的な利益だけを求める「PL脳」に陥っており、長期的な企業価値の向上を目指している「ファイナンス脳を持つアップルやアマゾンに負けていると表現しています。

ファイナンス側の人からすれば、これが正しい表現なのかも知れませんが、私は、こんな見方では日本企業を立ち直らせることは出来ないと思います。

企業価値を向上させるには、経営陣が「どこで勝負する会社なのか」という明確なビジョンを持つ必要があります。残念ながら、日本の大企業の経営者は、誰もが起業経験を持たない叩き上げのサラリーマン経営者なので、小手先の効率化、品質向上、機能アップは得意なのですが、アマゾンやアップルの経営者たちのようなビジョンは持ち合わせていないのです。

そんな人たちに、PL脳に陥らずに長期的に企業価値を増やすことに専念しろ、と言われても、それは野球選手にサッカーをしろと言っているようなもので、非常に難しいと思います。

ソニーのケースで言えば、本当に企業価値の向上を目指すのであれば、さっさと(企業価値を向上させるのに役に立つとは思えない)スマートフォン事業からは撤退しスマートフォンやセキュリティカメラ向けのカメラモジュールのシェアを1%でも向上させることに全精力を傾けるべきなのです。

しかし、サラリーマン経営者には、そんな痛みを伴う改革をする勇気もなければ、リーダーシップもないため、結局のところ、「もう少し頑張ってみよう」というだらしない決断をするしかないのです。

サラリーマン経営者の批判ばかりして来ましたが、創業者・起業家とサラリーマン経営者の一番の違いは、当事者意識の違いです。大株主であれば「会社の持ち主」として振る舞うのは当然で、勝ち目のない市場に残り続けることは「自分の財産を減らす」ことに直結するので、とても真剣になります。一方、サラリーマン経営者は、所詮一過性の「雇われ経営者」でしかないので、自分の任期中に大きな問題さえ起きなければ良く、痛みの伴う大改革などする理由がないのです。

つまり、朝倉氏がいくら「PL脳に陥るな、ファイナンス脳を持て」とサラリーマン経営者に訴えたところで、彼らがオーナー経営者のように振る舞うことは期待できないのです。

私の目に止まった記事2

日本の「失われた20年」を招いた決定的な弱点

タイトルだけを見ると、前半の記事と似たようなことを書いているように感じられるかも知れませんが、こちらは、高度成長期に作られたシステムが時代遅れになり、かつ、その改革に「所管官庁・族議員・業界団体が三位一体となって反対している」など、私と同様の問題の捉え方をしており、上の記事よりはずっと納得できます。

さらに、インターネットがオンライン・ショップを通じて個人と個々の商品を直接結びつけることが出来るようにしてしまったため、旧来型の階層構造のビジネスがアマゾンのようなロングテールな商品を扱えるビジネスに対抗できなくなってしまった、という指摘もしている点も、高く評価できます。

アマゾンのユニークなところは、「品揃えだけは店舗を持つ本屋に負けない」というたった一つの差別化要因を武器にして、オンライン・ショップを立ち上げたにも関わらず、最終的にはマス向けのベストセラーの販売においても通常の書店を凌駕してしまった点です。

その中核には、「インターネットとはなんであるか」をしっかりと理解したジェフ・ベゾスがいた訳ですが、そんなアマゾンに「インターネットのことは分からないから、若い君たちに任せたよ」と踏ん反り返っている経団連の重鎮たちが経営する日本企業が勝てるわけがないのです。

How Amazon Will Dominate the Supply Chain

アマゾンがAWS(Amazon Web Service)により、インターネット・サービスのあり方そのものを根本的に変えてしまったように、FBA(Fulfillment By Amazon)が、商品の流通のあり方を根本的に変えつつある、と指摘するとても良い記事です。

90年代後半から2000年代前半にインターネット・サービスを立ち上げようとすると、データセンターに場所を借りて自分でサーバーを購入してメンテナンスしなければならず、莫大な初期投資が必要でした。しかし、今はAWSのおかげで、必要なサーバー資源をアマゾンから借りれば良いので、インターネット・サービスをスタートするコストは劇的に下がりました。

FBAは、商品の流通に同じような革命を起こすためにアマゾンが提供しているもので、商品を売る際に必要だった、倉庫だとか配送センターがアマゾンのおかげで不要になっただけでなく、アマゾンの持つ規模の経済のおかげで、「自前でやるよりも安い」という状況が出来てしまっているのです。

すでにアマゾンは「誰にも到達できないレベル」まで流通ネットワークを充実さてしまっており、近い将来には先進国のものの流通のどのくらいがアマゾンによってコントロールされているかに、政治家や経済学者が注目する(そして危機感を持つ)レベルに至ると私は見ています。

image by: Jonathan Weiss / Shutterstock.com

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