9月17日、ロシアは中国軍も招いた「冷戦後最大規模の軍事演習」を終え、同時期にプーチン大統領と習近平国家主席の会談も行なわれました。この一連の動きは、一体何を意味するのでしょうか? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、中ロ協力体制を日米韓に誇示できたロシアは今後、中国にすり寄る一方で、経済的に吸収されてしまわない為にも日本の存在が必要になるのではないか、と分析しています。
中ロが冷戦後最大の軍事演習
ロシアと中国が、「冷戦後最大の軍事演習」を終えました。
中ロの連携鮮明に=冷戦後最大の軍事演習終了─ロシア 9/17(月)14:41配信
【モスクワ時事】ロシア軍が極東やシベリアなどで実施した冷戦後最大規模の軍事演習「ボストーク(東方)2018」が17日に終了した。30万人を動員した演習には中国軍も参加。
- 冷戦後最大規模の軍事演習
- 30万人動員
- 中国軍も参加
だそうです。どんな演習にも「仮想敵」がいますが、この演習はどうなのでしょうか?
北東アジアにおける米国やその同盟国の軍事的動きに、中ロが連携して対抗していく構えを鮮明にしたと言えそうだ。(同上)
「北東アジアにおける米国やその同盟国の軍事的動き」に対抗して…。
中ロの仮想敵ナンバーワンは、もちろんアメリカです。それで、中ロは、「緩衝国家の長」金正恩を守っている。米国とその「同盟国」といえば、もちろん日本と韓国ですね。そう、この軍事演習の「仮想敵」には、日本も入っている。
ロシアのプーチン大統領は13日、東シベリアのザバイカル地方で実施されたロシア、中国、モンゴルの合同演習をショイグ国防相、中国の魏鳳和国務委員兼国防相らと共に視察した。プーチン氏は演説で「潜在的な軍事的脅威に対抗する能力を見事に示した」と称賛。中国やモンゴルの兵士らに「第2次大戦中にわれわれは同盟を組み、侵略者に対抗した」と語り、「現在はユーラシアの安定と安全の保障という共通の重要な課題に取り組んでいる」と訴えた。中国は今回の演習に3,200人を派遣した。(同上)
2次大戦中に「同盟を組み、侵略者と対抗した」そうです。2次大戦時、ロシア(当時ソ連)の敵は、西のドイツ、東の日本です(とはいえ、日ソは1941年に中立条約を結んでいました。中国に関しては、共産党の中華人民共和国が成立したのは、大戦後の1949年です)。
プーチン氏と中国の習近平国家主席は、演習が始まった11日、ロシア極東ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」に合わせて会談した。プーチン氏は「われわれには政治、安全保障、防衛の分野で信頼関係がある」と強調。習氏も「中ロの協力は一層重要になっている」と応じ、連携を誇示した。ロシア国防省によると、中ロは今後も同様の合同演習を定期的に実施していくことで合意した。(同上)
プーチン、中ロについて「信頼関係がある」。習、「中ロの協力は一層重要になっている」。これ、どうなのでしょうか?
中ロ関係の真実
日本には、いろいろな「勘違い」があります。その一つが、「中国とロシアは、とても仲が悪い」というもの。確かに、両国には、問題もあります。一番大きいのは、ロシアが中国を警戒していることでしょう。なぜ?
ロシアに近い中国東北3省の人口は、日本に匹敵する1億2,000万人。一方、ロシア極東の人口は、700万人。それで、中国からどんどんロシア極東に人が入ってきて、「実効支配されてしまうのではないか?」という恐怖がロシア側にある。
しかし、一方で、ロシア最大の敵は、29カ国からなる「巨大反ロシア軍事ブロック」を率いるアメリカです。そう、中国とロシアは、「反アメリカ」で一体化しているのです。
これ、今にはじまったことではありません。03年、プーチンは、当時の石油最大手ユコスのホドルコフスキー社長を逮捕させた。その理由の一つは、彼が米エクソン・モービルに、ユコスを売ろうとしていたこと。プーチンは、ロシアの石油がアメリカに支配されるのを阻止した。すると、旧ソ連諸国で、続々と革命が起こるようになった。
- 03年、グルジア
- 04年、ウクライナ
- 05年、キルギス
そして、「親米反ロシア政権」が誕生していった。「このままでは、ロシアでも革命が起きる! 対抗しなければ!」と危機感をもったプーチンは05年、中国と事実上の同盟関係を築くことを決意します。この辺の経緯を、私は07年『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日―一極主義 vs 多極主義』という本に書きました。
そう、中ロの事実上の同盟は、すでに13年つづいているのです。そして、その関係は、14年のクリミア併合以降、ますます強固になりました。というのも、日本、アメリカ、欧州は、ロシアに制裁を科している。中国は、制裁はもちろんしないし、一言の批判もしなかった。そう、ロシア政府高官の中では、
- 中国 >>> 日本
なのです。日本は、この辺のところをしっかり認識しておく必要があります。
では、ロシアは、なぜ日本とも仲良くするのでしょうか? これは、もちろん、安倍総理が「経済協力」の話をするからです。
さらに、中ロの格差がますます開いてきている。中国のGDPは、約12兆ドル。ロシアのGDPは、約1兆5,000億ドル。その差は、実に8倍! このままだと、ロシアは、中国に吸収されてしまいますね。
中ロは、一体化してアメリカに対抗する。しかし、中国との関係でバランスをとるために、日本の存在も必要なのです。
image by: 首相官邸