MAG2 NEWS MENU

現役医師が警告。血圧高めの方は新基準だと高血圧症かもしれない

脳卒中や心筋梗塞などの合併症も招きかねない高血圧。従来までは「上が140・下は90以上」がその目安とされていましたが、最近アメリカの学会が発表した新たなガイドラインによると、それよりもさらに低い数値でも高血圧と見做されるとのこと。今後この新ガイドラインが世界のスタンダードになる可能性もあると、現役医師の徳田安春先生が自らのメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』にて紹介しています。

アメリカの新しい高血圧ガイドライン

2017年末にアメリカ心臓協会などの高血圧の診断や治療に関連する学会が、高血圧の新しいガイドラインを発表しました。新しいガイドラインは世界中に衝撃をもたらしました。というのも、それまでの高血圧の基準を数10年ぶりに変えたからです。従来の基準では、最高血圧140以上または最低血圧90以上が高血圧症でした。新しいガイドラインでは、最高血圧130以上または最低血圧80以上を高血圧として治療を勧めています。

治療では、まず生活習慣の改善が勧められていますが、それでも血圧が下がらない人や、脳や心臓の血管の病気リスクのもともと高い人には、血圧を下げる薬を内服することを勧めています。アメリカのガイドラインでの血圧の基準の変更によって、これまで高血圧症ではなかった多くの人々が、突然に高血圧症になる可能性が出てきました。

さて、アメリカのこの新しいガイドラインを採用するとどうなるのでしょうか。そのアメリカでは、これによって約7千万人が高血圧症となります。もし日本でもこの基準をそのまま導入すると、約2千万人の人々が新たに高血圧症とされるものと試算されています 。そして中国では、なんと2億6千7百万人もの人々が高血圧症となる可能性が出てくるのです。

国民の大多数が血圧の薬を飲む社会とは

高血圧症と診断されても、ただちに薬を飲まないといけないわけではありません。生活習慣の改善が効かない人や、リスクの高い人たちでお薬を飲む必要性が出てきます。アメリカの新しいガイドラインで、そのような人々の数は何人となるでしょうか? アメリカでは750万人、中国では5500万人が薬を新たに飲む必要性が出てくると試算されています。日本でも数百万人が新たに飲む必要があるとされる恐れがあります。

今後注目すべきは、アメリカの新しい高血圧ガイドラインに追随する国が出てくるかどうかです。もし、ヨーロッパがアメリカに追随することになれば、日本高血圧学会も同じようなガイドラインを提言することもありえます。

そんな状況のなか、アメリカ内科学会は、アメリカ心臓協会のガイドラインに対して批判的な意見を発表しました。過剰治療による有害性を考慮したコメントでした。

また2018年7月、イギリスの権威ある医学誌、ブリティシュ・メディカル・ジャーナル誌は、アメリカのガイドラインの導入には反対する編集長意見を発表しました。このように、アメリカ心臓協会の新ガイドラインは、世界的規模で高血圧治療のあり方に大きな影響をもたらす可能性があり、議論を巻き起こしています。

クスリより効くゼロ次予防

高血圧症はもともと生活習慣病です。アフリカのある地域の人々は、塩分摂取量が少ないために、高血圧症がほとんどいません。どの程度の摂取量かというと約3グラムです。この程度の摂取量で大丈夫なのか、と思う方もいるかもしれませんが、人類の体は進化の過程で低塩分食に適応するようにつくられてきました。世界保健機構は、1日の塩分摂取量を5グラム以下とすべき、としています。日本人の平均塩分摂取量は10~12グラム程度となっており、明らかに塩分過剰です。

また、肥満の人が高血圧を発症した時、体重を戻すだけで血圧も戻ることがありますカリウムマグネシウムなどを多く含む果物や野菜をよく摂るようにすると、血圧も下がります。ウォーキングなどの軽い運動も、長期的には血圧を下げる働きがあります 。生活習慣病は高血圧以外にも、肥満、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝などがあります。このような生活習慣病は、すべて生活習慣の強力な改善で完治することが可能ということがわかっています。

病気になった人たち、あるいは病気になるリスクの高い人たちだけを対象に、予防医療の介入を行う方法を高リスクアプローチと呼びます。一方、健康とされている人たちも含めて全ての人々がデフォルトとして、生活習慣を改善する方法をポピュレーションアプローチと呼びます。実は、集団全体に対する効果としては、高リスクアプローチよりもポピュレーションアプローチが効果が高いことがわかっています。

予防医療の用語に1次予防2次予防があります。1次予防は、症状がない人に対して予防的介入を行うもので、高血圧に対する血圧コントロールなどが当たります。

2次予防は、脳梗塞や心筋梗塞などの症状が1度は出た人に対して、その次のイベントが出ることを予防するために、薬を飲んだりすることなどが当たります。ポピュレーションアプローチによる予防医療は、1次よりもベースに来るものなので、私は「ゼロ次予防」と呼んでいます。血圧が高い人はもちろん高くない人も含めて、みんなで塩分摂取量を減らす工夫が必要です。それをデフォルトとするのがゼロ次予防なのです。

文献
Khera R et al. Impact of 2017 ACC/AHA guidelines on prevalence of hypertension and eligibility for antihypertensive treatment in United States and China: nationally representative cross sectional study. BMJ 2018; 362: k2357.

image by: Shutterstock.com

ドクター徳田安春この著者の記事一覧

世界最新の健康医学情報について、総合診療医師ドクター徳田安春がわかりやすく解説します。生活習慣病を予防するために健康生活スタイルを実行したい方や病気を克服したいという方へおすすめします。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ドクター徳田安春の最新健康医学 』

【著者】 ドクター徳田安春 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 第1〜4土曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け