運動する人にとって、エネルギー摂取は永遠の難問。メルマガ『届け!ボディメイクのプロ「桑原塾」からの熱きメッセージ』を主宰する桑原塾長のもとには、糖質ダイエットなどでついてしまった負のイメージを心配するランニング愛好家から相談が寄せられました。「三大栄養素のひとつ、糖質は悪じゃない」。桑原塾長の回答は、まずここからスタートします。
糖質を摂らずにグリコーゲンを増やす方法はありますか?
Q.ランニングをしています。糖質を摂ると体重が増えすぎたり、健康的にもマイナスが多いような印象をもちますので極力控えるようにしています。しかしグリコーゲンは大切であるという話も聞きますので、糖質を摂らずにグリコーゲンを増やす方法があれば教えて欲しいです。(45歳、男性)
桑原塾長からの回答 ~糖質は決して悪じゃない~
糖質制限ダイエットがダイエットのひとつの主流となってからは、糖質=悪という構図がずいぶんと定着してしまった感があります。ひとつ大前提として理解しなくてはいけないのは、糖質は決して悪ではないということです。
むしろ、より優先順位の高い栄養素であり、なによりも三大栄養素のひとつです。しかも、PFCバランス(エネルギー産生栄養素バランス)においては、全体の60%を糖質で摂取することが推奨されています。
当然、ランを始めとする多くのスポーツや競技でパフォーマンスに影響を及ぼします。脳の主要なエネルギー源はブドウ糖であることは間違いありませんし、様々な運動における主役となるエネルギー源(グリコーゲン)も糖質です。
糖質がNGとされる理由のひとつは、それが過剰となっていくからに他なりません。まず、ご質問の回答を先にしますと、グリコーゲンを糖質以外で増やすという方法はありません。クエン酸にはグリコーゲンリカバリーの効果がありますが、これも糖質という材料がなくてはグリコーゲン自体は増えません。
グリコーゲンはお金に例えるとATMのような存在です。ほぼ好きな時に好きなだけの金額のお金をおろすことが出来ます。しかし、その貯金は限度額がある程度限られているうえに、一度におろせる金額にも制限がありますから、例えばマンションや車を買うといったような時には適していません。
日常生活の大半のエネルギー源としては使い勝手もよく効率的ですが、大きな買い物をする際には不十分ということになります。もし、どんなに大きな買い物もATMでこなせるならば、それは便利かもしれません。普通預金の口座に数千万円が預けられていて、一度に好きなだけATMでお金をおろす事ができるのであれば便利極まりないでしょう。
同じ事がグリコーゲンにも当てはまります。もし、フルマラソンを走るエネルギーのすべてをグリコーゲンで賄うことができたならば、それはきっとハイパフォーマンスが期待できるでしょう。
ざっとした計算でいうと、体重×距離がその必要なカロリーと言われていますから、例えば体重70kgの人であれば70×42.195=2,953kcalとなります。しかし、体内のグリコーゲン量は筋肉と肝臓に蓄えられている分をすべて合わせても、せいぜい2,000kcal分しかありませんから、どれほど頑張っても約1,000kcalは足りない計算になります。
仮にグリコーゲンローディングをしたとしても肝臓に蓄えられるグリコーゲンには限界があって、100g程度(400kcal)となるため、もしグリコーゲンを増やそうと思えばもう一つのタンクである筋肉を大きくするしかありません。
今の私の体重がざっと75kgほどですが、私が筋量をまったく落とすことなく50kgまで減量をすることが出来た場合に、机上論的にはグリコーゲンのエネルギー量でフルマラソンをこなせることになりますが、まぁ現実的とは言えませんね。
そこで、いつまでもグリコーゲンだけにこだわるのではなく、潔く脂肪をエネルギーとして活用する方にシフトしていくわけですが、この脂肪の燃焼にも深くグリコーゲンは関与しています。
まず、グリコーゲンが足りない状態になると、解糖系からピルビン酸へと続く流れの先にあるクエン酸回路内でオキザロ酢酸が作られにくくなります。いわばクエン酸回路の材料が不足気味になるというわけです。
また、グリコーゲンが少なくなっている状態は、糖新生を起こしやすい環境とも言えます。元来、糖質と脂質がエネルギーとして使われるのが通常なのですが、もうひとつエネルギーをもつ栄養素がタンパク質です。
このエネルギーをもつ3つの栄養素の総称が三大栄養素なのですが、タンパク質は体の材料としての役割が中心であってエネルギー源としての活用はイレギューラーです。
糖質が普通預金やATM、脂質が定期預金とするならば、タンパク質は不動産のような資産に例えると分かり易いかと思います。しかし、普通預金が足りなかったり、定期預金を解約するのに時間がかかっている時には、不動産を担保に換金するというようなイレギュラーな方法が生まれてきます。
これが糖新生です。具体的には筋肉などが分解をしてアミノ酸が作られて、そのアミノ酸がエネルギーへと変わっていくのです。 この場合のひとつの欠点は、アミノ酸からアンモニアが作られやすくなるという事です。アンモニアは体内において有害であるために、クエン酸回路内にあるαケトグルタル酸が反応をしてグルタミン酸へと変換、無毒化していきます。
この反応によってもクエン酸回路内の物質が足りなくなるために、クエン酸回路がスムースに回らなくなります。その結果、脂肪が分解されて入ってきたアセチルCOAを取り込めなくなるという状況が生まれてしまいます。すなわちこれこそが、脂肪の燃焼効率を落とすということなのです。
一方で糖質がランのパフォーマンスにマイナスに作用するケースもあります。
トレーニングや運動の直前にブドウ糖の摂取量が多くなると、インスリンが分泌される効果と運動によって筋肉内にブドウ糖が取り込まれる効果が重なるために、低血糖を起こしやすくなります。低血糖によるスタミナの減少のみならず、先のグリコーゲン不足のケースと同様に脂肪酸の取り込みが弱まってしまいます。
これは1時間ほど前からのブドウ糖の摂取量に影響を受けるという実験の結果がありますので、血糖値とインスリン濃度が高い状態を運動スタート時に作らない工夫が必要です。練習やスタート前にはCCDのようなインスリンの分泌を一気に引き上げない糖質の利用が好ましいと言えます。
全体の中では、朝食を含めた午前中というシーンと、練習やトレーニング直後には積極的に糖質を摂取することをお勧めします。特に練習直後のグリコーゲンリカバリーは、ランにとってはかなり重要なパフォーマンスアップ要因といえます。
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