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軍事アナリストが警戒。「一帯一路」より注目すべき「遠交近攻」

ネット上で見かけたルワンダ軍の動画から、中国がアフリカで進めている関係強化の動きが、確実に進展していると読み解くのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、アフリカ諸国との軍事、経済面での交流は、中国が戦国時代からとってきた「遠交近攻」戦略に通じるもので、「一帯一路」に目を奪われ見逃してはならないと警告しています。

一帯一路より遠交近攻に注目せよ

最近、中国の軍事的動向を扱うサイトでアフリカのルワンダ軍の動画を見る機会がありました。ヘルメット、戦闘服、ブーツから小銃まで、全てが中国製。それまでのイギリス式のものとは一変していました。

それだけならどうということはないのですが、行進の隊列の動きを見て、これは日本としても座視できないと思いました。部隊指揮官は旧ソ連や中国と同じように、両腕を横に振っていますし、足はヒザをピンと伸ばしたプロイセン式のグースステップ(ガチョウ歩き)。もちろん、日本国民がテレビで見慣れた北朝鮮の軍事パレードとも共通しています。

これが何を意味しているのか。部隊の動きまで中国式だということは、教育訓練を中国の軍人が行っているということです。おそらくはルワンダ政府の中枢に中国の軍人が軍事顧問として勤務しているのでしょう。それは、中国による「ハイブリッド戦略」がアフリカ諸国において、深く静かに進んでいる実態が現れているということです。 小銃など小型武器の供与や売却から始まり、それが中型から大型武器の供与・売却に進んでいく。そうなると、中国で教育を受けた指揮官が増えることもあり、ルワンダ軍は完全に「中国軍」と化すことになります。

軍がそうなるということは、政権が軍に依存する度合いが高まることでもあります。ご存じだと思いますが、発展途上段階の国においては軍に国家の秀才が集まります。その軍の影響力のもとに、中国はルワンダの政治・経済・社会に浸透していくことになるでしょう。各分野の指導者も中国留学組で占められていくと思います。

この「中国化」の現象はルワンダにとどまるわけがありません。同じパターンはほかのアフリカ諸国にも及んでいると考えなければなりません。中国が影響を及ぼしているアフリカ諸国は56カ国の大部分を占めるといって過言ではありません。さらに増える傾向にあります。 TICAD(アフリカ開発会議)を主宰することを持って「アフリカ戦略」としている日本が、アフリカの大地で中国と競えると考えるのは浅はかではないかと思ってしまいます。中国は2018年9月、北京で「中国・アフリカ協力フォーラム」を開きましたが、53カ国が出席し、そのうち大統領など国家元首が出席したのは36カ国に及びました。2016年のTICAD(ナイロビ)には53カ国が参加してはいますが、総合的な戦略の点で中国に差をつけられていることは間違いありません。

中国の世界戦略については、日本では中央アジアからヨーロッパに向かう「一帯一路」の成否に注目が集まりがちですが、中国はアフリカ戦略を「一帯一路」の延長線上に位置づけているのです。別の言葉でいうなら、「遠交近攻」が文字通りアフリカで静かに進められていることを見逃してはならないと思います。

一帯一路 中国西部・中央アジア・欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部・東南アジア・インド・アフリカ・中東・欧州と連なる「21世紀海上シルクロード」(一路)からなる経済・外交圏構想。2013年に習近平国家主席が提唱した。
遠交近攻 中国の戦国時代に唱えられた外交政策で、遠い国と親しく交際を結んでおいて、近い国々を攻め取ること。かつてのイギリスの日英同盟などはロシア帝国に対抗するための遠交政策だった。このイギリスの外交政策は中国の戦略にも見ることができる。(小川和久)

image by: Larry Ye / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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