こういうのを見ると、安倍政権の応援サイトのなかには、内調がからんでいるものもあるのではないかと、つい想像してしまう。
昨今話題の「テラスプレス」もそうだ。このサイトに掲載されている記事をまとめた冊子が自民党本部から党所属国会議員の事務所に大量に配られている。
冊子の標題は『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』。選挙演説用の参考書としての利用を勧めているらしい。
中身はというと、「トンデモ野党のご乱心」「フェイクこそが本流のメディア」「安倍政権の真実は?」の三章からなり、立憲民主党や共産党、朝日新聞や東京新聞をこっぴどく叩く一方で、安倍政権のやることなすことすべてを持ち上げている。
記事はテラスプレスのものとほぼ同じであり、野党党首をバカにしたような顔漫画をそえて、一冊にまとめている。
TBS「ニュース23」の党首討論でこの冊子の件が取り上げられ、キャスターが「立憲民主枝野代表の無責任を嗤う」と書かれていることを示して考えを求めた時、安倍首相は「党本部でいろいろな冊子を配っていますが、いちいち見ていない」と断ったうえでこう言った。
「無責任といえば無責任だと思いますよ。統一候補を選んでいるにもかかわらず、共産党は自衛隊違憲だと言い、立憲の枝野さんは合憲だといっている」。
いつもの話のすり替えだが、安倍首相のこの言いぶりから、冊子が配られていることはもちろん、野党批判の中身についても知っていることがうかがえる。
ところで、「テラスプレス」なるサイトが奇妙なのは、その名で検索してもページが出てこないことだ。つまり運営者はアクセス数にまったく興味がないようなのである。その点では、映画に描かれたようなネットによる情報操作とは多少、趣が異なる。
運営主体や執筆者は不明だが、昨年7月以来150本近くも記事が投稿されており、内容は安倍応援団そのものであっても、文章は分かりやすい。いわば新聞記者が書いたような感じである。
他に、はっきりしていることがある。同じ自民党なのに、石破茂氏には敵対的なのだ。
このサイトへの投稿が始まったのは昨年7月13日ごろだが、8月6日の記事では、総裁選への出馬意向を固めた石破氏について、加計学園問題とからめ「獣医師の既得権益を守るために動いた」と批判している。
総裁選を安倍氏が有利に戦えるように意図した記事であるのは明白だ。だから、口が裂けても自民党本部がからんでいるとは言えないだろう。
あえて運営主体をわからないようにし、当然、連絡もとれないようにしている。この奇怪なサイトの正体は何者なのか。
その点、総裁選で内閣情報調査室が安倍氏のために活動していたという情報があるのは、気になるところだ。
総裁選から遡ること5ヶ月前、内調スパイたちは石破氏に関する情報収集に動き出していた。
(今井良著『内閣情報調査室』より)
サイトの実質的運営者が誰であれ、官邸か党の安倍側近が何らかの形で関与していたと考えるほうが自然だ。スタート段階ではURLを知る特定の仲間内で情報を共有するためのサイトだったかもしれないが、記事が時系列的に増えるにつれ、選挙演説の参考資料としてうってつけになってきたのは確かだろう。