前途多難。それでもワークマンは、ユニクロの牙城を崩せるのか?

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ユニクロなどファストファッションをお洒落に着こなすロジックを解説する大人気メルマガ『【最も早くオシャレになる方法】現役メンズバイヤーが伝える 洋服の着こなし&コーディネート診断』。その著者・MBさんが、いま若い女性まで新たな顧客として取り込み始め急成長している「ワークマン」の商品でお洒落になるコーディネートを、ビジネス分析とともに詳しく解説しています。

ワークマン総評「生産背景と目的から見る”甘さ”から、ユニクロ超えならず」

昨今注目されているワークマンですが、今回はワークマンのカジュアルアイテム、ブランド展開、コーディネートについて徹底的に語ります。果たしてワークマンは第二のユニクロになれるのか? 専門家であるMBが論理たっぷりに、またビジネス観たっぷりに語ります。

アウターの一部は確かに「ユニクロ超え」

ワークマンの店舗数はユニクロと近くまた作業服とは言え洋服を作ってきた歴史も長い。条件だけで言えばユニクロ並みのコスパ品を作ることが可能であり、「ユニクロの牙城を崩すことが出来る唯一の企業」とも言えるでしょう(店舗数で言えばユニクロよりしまむらが上ですが、しまむらは型数が多くまた店舗により商品展開が異なるためロットは比較的少なめ。ユニクロのように巨大ロットでモノを作ることに慣れてるわけではない)。

洋服の値段は工業生産的な論理で決定されます。数が多ければ多いほど単価は安くなる、基本的にはただそれだけの話なので、ワークマンはその点他企業よりも大きな優位性を持っていると言えるでしょう。

で。肝心のモノを見ると確かにコスパは凄まじいです。
例えば

オススメアイテム

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BRAND:ワークマン
ITEM:透湿レインスーツSTRETCH
PRICE:4,900円
https://store.workman.co.jp/item/item.html?i=661

コーディネートは後述しますが、こちらのマウンテンパーカーは多分世界一レベルでコスパが良いです。アウトドアでよく見る透湿防水素材(雨など外部からの水を防ぐ上に内部の蒸れは逃すハイテク機構。都市生活でよくある外は寒いけど電車の中は暑いといった様な状況でも快適に過ごせる。電車の中で汗だくにならない)を使ったマウンテンパーカー。GORE-TEXなどでおなじみですね。

市場で買えば1万円未満のものなどほとんどないハイテク素材のマウンテンパーカーですが、こちらなんとパンツとセットで4900円と驚異的な価格設定。勿論透湿防水と言ってもスペックがあります、例えばプロユースのGORE-TEXなどに比べれば機能性はやや劣りますが、それでもこのクオリティで1万円を切って提案しているところはおそらく世界中探してもほぼ無いでしょう。パンツとセットなんて聞いたこともありません。

※参考「ブロックテックパーカ」

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https://www.uniqlo.com/jp/store/goods/404362/

ユニクロも数年前からアウトドア需要を見越して ブロックテックという自社開発の透湿防水素材のアイテムをローンチしていますが…正確なスペック比較をしているわけじゃありませんが(そもそもどちらの商品も都市生活においては十分なスペックなので比較の意味がないと思ってしていません)個人的にはワークマンの方が素材感は上だと思ってます。

ブロックテックパーカー(コート類のブロックテックとマウンテンパーカー類のブロックテックは微妙に違うので注意、ここではマウンテンパーカーの話です)は柔らかくテロンとした素材感でハリがない。だからこそインナーとしても使える汎用性がありますが、その分マウンテンパーカーの特徴である首元部分が寝やすいため小顔効果に欠けるのが難点です。

他方ワークマンのこちらのアイテムは固い素材でハリがある。インナーに入れるとゴワつく反面、首元が立ちやすく小顔効果があり、また固めの素材のため体にフィットせずシルエットを美しく見せてくれます。(柔らかい素材は体の線を拾ってしまうため体型が分かりやすくなる、逆に固い素材は体の線を拾わないため体型をごまかせます。)

値段で比較しても定価はワークマンの方が安い。ただユニクロの方がデザインはシンプルで万人にウケやすいとは思いますが、逆に言えばそれは「つまらない」とも捉えられる。

ワークマンの方はアウトドアのデザインを詰め込んでおり地味にならない。胸元の止水ZIPや脇下の切り替えなど、「やりすぎ」ではない程度のデザインを盛り込んでおりシンプルだけど地味にならないオシャレ感のあるものに。もちろん好き嫌いがあると思うので「ワークマンの勝ち!」とまでは思いませんが、少なくともブロックテックを買うときにもう一つ「悩む選択肢」にはなるでしょう。このアイテムに関しては十分「ユニクロ一強の牙城を崩している」と言えます。デザイン的にもスペック的にも。

とりわけアウター類に関しては「ワークマン感」はほぼ無く、名品が多かったです。安く手頃で形もよく機能性も高くデザインも悪く無い、そんな印象でした。

コンセプトが甘くまだまだ発展途上な部分も

では全てが全てワークマンが優れているか、と言われると決してそうではありませんでした。上記の通り巨大で豊富な生産背景を持っておりモノ作りのレベルは高い。しかしあえて辛辣なことを言わせていただくと「コンセプトが甘すぎる」と個人的には思います。

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https://store.workman.co.jp/item/item.html?i=6058

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https://store.workman.co.jp/item/item.html?i=5918

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https://store.workman.co.jp/item/item.html?i=6091

例えばこれらの商品は10年以上前の楽天市場で見かけたような酷く粗雑なデザイン。もちろん作業着としては優秀なのでしょう。ポケット類が多く動きやすく機能的、頑丈さもあり旧来のワークマンとしては文句ないものだと思います。しかしながら街着として考えるとあまりにもトレンドを意識していない、デザインがあまりにも古くチープです。

私は「洋服は文脈である」となんども説いています。例えばディオールのコートでもセリーヌのスキニーでも使い方を間違えれば野暮ったくなります。他方で楽天の安っぽい服でも使い方が真っ当であるならばおしゃれに機能することもあります。全ては文脈であり正解は常に相対的。「これを買えば絶対間違いない」「これを買うのは絶対間違い」ということはほぼありません。

上記の商品も「作業用として」は優秀なものだと思います。また、極めて限定されたある特定の着こなしにおいては「おしゃれ」に機能させることも不可能ではないでしょう。しかしこのメルマガでピックアップするような「良品」ではありません。誰もが使いやすい、トレンドデザインに優れている、シルエットが綺麗、、、どれも該当しません。相当のコーディネート力がある人ならなんとか着回せるんじゃない?レベルです。限りなくNGに近いアイテムだと思います。

お客様をどうしたいのか?目的が定まっていない

なにが言いたいかというと・・・
ワークマンの問題点は「街着用の服と作業用の服をハイブリッドしてる」点にあります。実はワークマンはカジュアル業態店舗である「ワークマンプラス」においても、「街着専用に開発した商品」が一点たりとも無いそうです。全て作業服として使える従来的なワークマンとしての商品であり、ワークマンプラスはその中で「街着として使っても違和感のない服」を集めた業態だそうです。ここに大きな問題があると私は感じました。

上記の通りですが
「作業着として優れている」という文脈から導き出すデザインと、
「普段着として優れている」という文脈から導き出すデザインは、
全くもって異なります。

その中でたまたま交差点を見たのが「アウター類」です。上記で紹介した通りマウンテンパーカーは作業着としても日常着としても優れたものです。しかし例えば紹介したものの「セットのパンツ」などは日常着としては酷すぎる出来です。

シルエットはなに一つ考えられていない。ただ「雨を防ぐ」くらいにしか捉えてないでしょう。オマケにしてもひどい出来です。着用感もラバーの質感が不快で蒸れも起こりやすい。もちろん作業用としては及第点なのでしょうが、日常着としては目も当てられないレベルです。

街着として提案している限りはワークマンプラスは「お客様をオシャレにする」という洋服ブランド共通のミッションを持っているはずです。
しかしながら「作業着」というくびきの中でそれを行おうとしているため、「イマイチおしゃれにならないけど、まあいいか」という妥協を感じます。作業着を目指すのか街着を目指すのかコンセプトがどっちつかずで甘いため、「たまたま交差点を突くことが出来たアタリ品」以外はなんとも言えない野暮ったさに溢れているのです。

条件がある分、ユニクロにはまだ劣る

実はこれ考えてみたら仕方のないこと。
「ワークマンは800店舗あり、だからこそロット数が多く、単価を安くできる」と書きましたが、つまり「既存800店舗で売れるもの」じゃないと高コスパを実現できないのです。

街着業態である「ワークマンプラス」はまだ数店舗しかない。この数店舗だけで展開する商品を作ってしまえば、並のブランド以下のコスパになる可能性もあります。だから彼らは「作業着として売れるもの」を前提条件に持ってくるしかないのです。

とりわけ難しいなと感じたのはパンツ類です。
パンツのシルエットは全くと言っていいほどトレンドを意識していない。ボリュームある作業靴を合わせるためか裾幅は甘いし、その割にモモ幅は細くなっているため歪な印象を受けます。

「体を美しく見せる」という目的によって作られているユニクロ製品と
「(作業着として使える範疇で)なるべく美しく見える」という目的によって作られているワークマン製品とではやはり差が出てしまうのですね。

VMDもまだまだ甘い

※参考画像「ワークマン店内」

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http://www.neqwsnet-japan.info/wp/wp-content/uploads/2019/08/L1009378.jpg

またVMD(商品陳列)もおかしいと思いました。
ワークマンプラスは街着として提案しているのか、純粋な作業着として提案しているのかが明確に区別されていません。ららぽーとなどのモールで「洋服屋さん」として入ってきた人が間違えてシルエットの悪い作業着を掴む可能性があるということ。

「お客様をおしゃれにしたい」という目的よりも「街着としても使えそうだから売ってみよう」という想いが透けて見える気がします。街着として提案するならせめてもっとコーディネート提案やそれに即した商品陳列をすべき。「お客様に良いものを与える」「お客様をおしゃれにする」そうした気概をあまり感じません。

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