若いほど発揮され、年を取るほどに枯れていく嬉しくない才能の話

 

ちょうど大学生になった頃、この才能に関してある傾向があることに気付いた。どうも自分が怒らせるのはもっぱら年長の者や目上の者ばかりなのである。という次第だから、凡そ先生と名の付く人は悉く怒らせた。ただ不思議なことに年下の者や後輩にはこの言動だか雰囲気だかは頗る評判がよかった。

ということは理論上、私が年を重ねるほどに私が人を怒らせるという事態は減少して行き、逆に好感を以て遇される機会が増えて来るという予想が成り立つ筈である。中年となった今現在、現実はまさしくその理論通りとなっている。私が怒らせそうな立場の人間がぽこぽこ死んで、私の周囲には年下の者がどんどん増えて来ている。最早予想は定理と言っていいくらいだ。

ただ、後輩受けがいいというのもどうやら人格的に慕われているという訳ではないようで、単に話の聞き方の問題であるようだ。確かに自分は先生より生徒に学ぶ方が好きである。先輩より後輩に尋ねる方が好きである。負ぶってくれている大人より負うた子に教えられる方が好きである。

その結果、(たぶん)ありがたいことに私の興味の境界線は次々と移入される若い人たちの知識によってどんどん拡がっている。私が生に執着するとしたら、まさにこの一事への期待につきる。

それでも長い人生、思い出してみれば決して怒らなかった大先輩もいた。私はきっとそういう人たちのことも(たとえ何となくであっても)怒らせていたに違いない。そう思うとそういった人たちの寛容さに心打たれるばかりである。

これからさらに年を取って行くと私の才能は理論上枯れてしまうことになる。私は誰も怒らせることはない。もしかしたら、その時になって初めて「良き生徒」になれるのかもしれない。何と言う皮肉か。やっぱりありがたくない才能である。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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