洪水を阻止せよ。暴れ川の氾濫防いだ日産スタジアム異次元の備え

2019.11.29
 

同様に利根川水系では、渡良瀬川下流の利根川との合流地点にある広大な渡良瀬遊水地がほぼ満杯になるまで貯水池機能を発揮して、下流の利根川や分流する江戸川の流域を洪水から守った。渡良瀬遊水地は面積33キロ平方メートル、総貯水容量2億平方メートルの日本最大の遊水地で、栃木、群馬、埼玉、茨城の4県にまたがっている。33キロ平方メートルというと、新宿区と渋谷区を合わせたほどの面積だが、それでもギリギリであった。

今回は利根川支流の吾妻川に造られた八ッ場ダムがたまたま完成したばかりで水が溜まっていなかったため貯水が機能した面もあるが、過信は禁物だ。さらなる遊水地の拡張が急務だろう。

台風19号で最大の被害を受けたと目される福島県でも、被災が最も大きかった地域の1つが中通りの郡山市だ。同市は東北で2番目の人口33万人を有し、京浜工業地帯に工場を持つ多くの企業が進出する産業都市である。郡山市役所の発表では、市内14.37キロ平方メートルという、目黒区と同じくらいの広範な地域が浸水した。

郡山市では阿武隈川が越水、支流の谷田川などの堤防が決壊したが、4つある工業団地のうち、市街地に近く、2つの川の合流地点にも近い中央工業団地が水没した。パナソニックなど150社の加工組立工場などが立地する。1986年の8.5水害でも中央工業団地は被害を受け、国や県でも800億円以上を費やして河川改修工事を行ってきたが、足りなかったということだろう。元々、中央工業団地は大雨が降れば遊水池になる氾濫原のような低地に立地していたが、下水道などの工事が進み、水はけが改良されて少々の雨でもすぐ水が引くようになっていたという。ところが、今回は阿武隈川本流の水かさや勢いが凄く、谷田川などの相対的に水流が弱い支流へと大量の水が遡上し、堤防決壊や排水溝を逆流する内水氾濫につながった可能性がある。

郡山市発祥の日本最大のラーメンチェーン「幸楽苑も、中央工業団地にある主力の郡山工場が操業を停止していたが、11月4日再開した。工場の浸水は10㎝程度と、2m近く浸水した箇所もある工業団地内にしては軽微だったが、電源系が地上に面した外にあったため、浸水して電気の供給ができなくなっていた。幸楽苑では全国で500店を超える店舗のうち約240店で1週間休業し、その後は他の工場の増産で順次メニューを限定して再開していたが、11月12日より通常の営業に復帰している。電源系は万が一に備えて高所に据えなくてはならない。

幸楽苑は郡山市の中央工業団地にある主力工場が被災した

幸楽苑は郡山市の中央工業団地にある主力工場が被災した

古来より氾濫、洪水を繰り返してきた千曲川であるが、まさかの橋の崩落が起こったのが、長野県東御市だ。同市は、北国街道宿場町の面影が色濃く残る海野宿という年間30万人弱が訪れる観光地を持つが、その出入口で千曲川に架かる海野宿橋の半分ほどが橋桁ごと流されて、宙吊りの状態になってしまった。橋はちょうど川が湾曲する部分にあり、流水の勢いで護岸がえぐられて、川沿いにあった道と駐車場もかなりの部分が流されて無くなってしまっている。

橋が半分流された長野県東御市の海野宿橋

橋が半分流された長野県東御市の海野宿橋

橋の下には、しなの鉄道が走っているが、危険なため、上田駅と田中駅の区間の運転をしばらく休止していた。国の応急措置により橋の補強が行われたので、11月15日に再開している。

改修中の千曲川(長野県東御市)

改修中の千曲川(長野県東御市)

東御市のある千曲川上流の東信地区は盆地の気候で、よく水不足に悩ませられるほどだという。日本の年間降水量は1,700㎜ほどに対し、東御市の年間降水量は過去7年の平均で約58%の979.6㎜。確かに少ない。同市役所によれば、かつて体験したこともない雨量で、水害など考えもしなかったようだ。台風19号クラスが襲来すれば、普段雨があまり降らない地域でも、橋や道が流されてしまうこともあり得るのだ。

駐車場に関してはまだ2ヶ所が残っているが、メインの駐車場が使えなくなって観光バスが迂回路を通らなくてはならなくなったため、ツアーでは海野宿を信州の観光ルートから外す動きもある。海野宿の町自体には被害はほぼなかったが、主力駐車場とそれに繋がる橋の消失もあり、11月3日に予定されていたメインイベントの「海野宿ふれあい祭り」が中止を余儀なくされた。例年なら賑わう秋の行楽シーズンの週末でも、観光客はまばらなまま、静かに過ぎ去ろうとしている。

観光客減に悩まされる海野宿

観光客減に悩まされる海野宿

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