障がい者を起業家に。名古屋発、ダイバーシティ化を目指す斬新策

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「ダイバーシティ(多様性)」との言葉が広く使われていますが、一方的な目線からこの言葉を発するケースもあります。例えば、企業側の意図する多様性に就労者側が寄り添うことを求められる場合は「既成様式への強要」とも言え、多様性とは逆かもしれません。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、名古屋の支援施設を見学し、本来の「多様性」のあり方を再認識したといいます。

雇用センターのフォーラム開催で見えてきた「強要への警鐘」

本欄でも紹介した、障がい者雇用を推進するために雇用を積極的に進める企業や支援者、そして当事者を結ぶコミュニティである「障がい者雇用推進センター」は、11月27日に初めてのイベントとして東京都千代田区で「障がい者雇用推進フォーラム」を行った。

特別講演として山本登志哉・発達支援研究所長が、発達障がい者とのコミュニケーションについて「ディスコミュニケーションから考える」視点から、発達障がい者のコミュニケーション特性を示し重要なポイントを指摘した。それは企業の就労現場で、または事業所の支援現場で真剣に当事者と向き合おうとする方々には力強い言葉だったらしく、支援の活動を整理し共有することは、やはり大切なことなのだろう。山本所長も同様に発言への反応などについて同研究所のブログで紹介しているので、そちらも参考していただきたい。

私としては、山本先生を講演にお誘いした立場から、その反応に嬉しく感じると同時に、次に目指すものも静かに示されたことに気が引き締まる。それは、参加した当事者の発言である。

当日は山本所長の講演に続き、雇用の現場からの報告として「先進的に」取り組んでいる企業団体からの報告を行った。その「先進性」は担当者の思いが必須でもあり、その感情を形にすることのやり方も効果的であることが求められる。このバランスの中で報告企業の各社は「先進的」であり、心から敬意を表したい。

それらの企業が発表の後に、そのような寛容な姿勢の企業だからこそ出た意見だと思うが、ある名古屋のフリースクールの関わる発達障がい当事者の男性から「やはり企業は、障がい者に対し自分たち企業に合わせろという話なんですよね」と問題提起がされた。その当事者にとってはそれぞれの努力も企業側の一方的な話で、当事者への視点ではない、との評価である。

確かに、「障害者雇用」に関するコミュニティは企業の頑張りが強調されがちで、当事者が置き去りにされることもある。2日後、私は名古屋にあるフリースクールを訪問し、彼の活動に触れた。

その現場であるフリースクールはその日、高校卒業認定試験の直後で学生は休みとのことで、教室は誰もいなかった。フリースクールを立ち上げた塾長は、自分が関わってきた子供の当事者が社会で挫折している姿や支援活動が有効に機能していない実態を目にして、その解決に向けた取組みとしてフリースクールを立ち上げたという。

高校卒業認定を獲得させることも重要なミッションではあるが、基本的な姿勢として「そもそも企業で就職すること自体向いていない人も多いから、個人が向かえる未来を考えたい」というのがある。

自分で道を切り開くために、必要であれば起業支援も視野に置く。具体的には資金調達のための融資申請の支援も行う。そんな説明を受けながら、私は「やはり」とひとり合点し、今の制度の枠組みではできない支援に挑戦し、そして苦労している姿を自分と重ね合わせた。このフリースクールとは今後もつながり、新しい支援の道筋を考えていきましょうとの話になった。

社会の多様性は、幸せにむけてのトラックの多さでもある。社会で生きづらさを感じている人は敏感にその狭められたトラック、もしくは選択肢の少なさ、就社が「幸せ」という道筋への強要に近い圧力等に「普通に」反応しているに過ぎない。そして冒頭の障がい者雇用推進フォーラムについても、道を間違えば、就社が幸福という思想を強化することにも成りかねないから、注意したい。

この就社は幸せだと思える人にはより幸せとなってほしいし、就労がつらい人が少しでもそのつらさが緩和できれば良いとも思っているが、それは基本的に自由選択の1つに過ぎず、そこに優劣はない。就労という形を企業外でも考えられるように、その道を考えていくのも、同時に活発化しなければいけない。名古屋での新しい出会いはその道を示してくれたような気がする。

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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